本編
「緒方、好き」
「そうか」
なりふり構ってなんかいられない。
家に帰って行事予定表を確認したら、2カ月と少ししかなかった。
図書室に着くなり彼に抱きついて告白して、彼の肩越しに一緒に本を読む幸せな毎日。
拒否されるかと思っていたから最初はびくびくしながら彼の首にかじりついたが、驚いたように頭をぽんぽんと撫でられただけで何もなかったので、彼の背中は樋山の定位置だ。
放課後も図書室で待ち合わせして一緒に帰って、でもそれは今までもしていたから劇的に距離を縮めることにはならない。
なんとかしたい、と思ううちに時間ばかりが過ぎて焦って、だから緒方から真面目に訊かれたときは泣きたくなった。
「なあ、樋山は男なら誰でもいいのか」
「……そんなわけないでしょう、緒方。君は女性だったら誰でもいいのかい?」
「ふむ。これは失礼なことを訊いたな。悪かった」
納得したように頷く彼に、いっそのことキスでもしてみようかと思ったがやめた。
一方的に、だなんて嫌がらせ以外の何物でもない。
「俺は今まで、男性も女性も好きになったことはないよ。中1のときの緒方が初恋」
「へえ……」
首を傾げる緒方に嫌な予感がした。やめとけばいいのに、怖いもの見たさ、というやつがむくむくと頭をもたげてきて訊かずにはいられない。
「緒方の初恋は?」
「俺……?」
さっと彼の頬に朱が走る。耳まで真っ赤でなんだか申し訳なくなってきた。
「あー、もういいよ、緒方、答えなくて」
「俺は、誰も好きになったことがない……。小学校の時、女の子からチョコはもらったけど」
「あーそっか、共学だもんな」
男子校で、しかもホモと思われては一大事の夏扇学園に幼稚園からいたため、そんなイベントは樋山の人生に縁がなかった。彼の答えにほっとするよりも、素直に羨ましいと思う。ところが彼はますます顔を赤くして俯いてしまった。
「クラスの他の男子に盗られた」
「……あ、そう」
なんだか初恋とずれてる気がする。気を取り直して本日二度目の告白をしてみた。
「緒方、好き。俺にチョコくれない?」
「友チョコ、ならな」
駄目もとで言ったので、聞き違いかと思った。
脳が彼の言葉を理解して、思考停止、再起動。
「え、ほんとに!?」
「いつも世話になってるからな」
掴みかからんばかりの勢いで彼に訊くと、詰めた分の距離を離されてから返事が来たがそんなの気にならない。
「えー、やった、緒方、好き!」
「知ってる」
「帰ったら、バレンタインデーに印つけるよ!」
「……そうか」
テンションが一気に上がった樋山に彼が引いていることにも気づかず、恋っていいな、と樋山は幸せを噛みしめた。
おわり。