番外編
朝、上履きの中に入っていた手紙を樋山はこっそりトイレで確認した。
見間違いかと思い、樋山は何度も確認したがそこには最初見たときと同じ文字が記されている。誰の字かさっぱりわからない。
「緒方とデートかあ……」
はあ、と溜め息が出るのは許してほしい。
なにしろ彼と顔を合わせるのは昼休みと放課後の図書室、それに下校のときだけ。
多すぎる、なんてとんでもない。少なすぎる。足りない。
おまけにお互いしゃべらないから一緒にいても、本当に一緒にいるだけ。
そもそも恋人ですらないという切なさ。
これは、チャンスなのかもしれない。
「緒方、遊びに行こう」
昼休みにいつもの小説スペースで緒方にさりげなさを装って誘ってみた。
デート、という言葉は使えなかった。
デートは恋人同士、遊びは友人同士で行くもの、中身は同じ! と自らに言い訳し、どきどきしながら返事を待つ――返事なし。
いや、まあわかっていた。ここでくじけてはいけない。緒方の読書タイムを邪魔したくないけれど、一旦口にしてしまえば答えが知りたくて仕方がない。
「緒方。おーがーた」
「……っ? 急用か?」
「え、あ、いやー……。遊びに行かない?」
「今から?」
「違う違う! 緒方が空いている休日に」
怪訝そうに緒方が眉を寄せるので慌てて否定した。気まずい沈黙に、樋山は訊いたことを後悔していた。
「どこに?」
ぽつり、と緒方が訊く。そこまでは考えてなかった。まあ、デートと言ったら。
「緒方が行きたいところ」
「行きたいところ……」
本を畳み真剣な顔をして悩み始める緒方を眺めた。
よかった、遊びに行くこと自体は拒否されてないようだと樋山は嬉しくなった。
そんな彼の悩みぬいた末の結論。
「本屋」
「え」
「やっぱりだめか」
「え、え、え、あ、いや、喜んで!」
おわり。