番外編
休み時間。
「緒方あああああ! 好きだあああああ!」
2−6の窓から放たれる樋山の叫びにうるさいと亮介が容赦なく叩いた。
「ひどい! 自分がヒロと同じクラスだからって! この切なさ、亮にはわかんないよ!」
「一生わかりたくないな」
冷めた目で樋山を見下ろす亮介と半分涙目の樋山の睨みあいを崩したのは亮介の想い人である寛樹。
「ほらほら恭、亮なんかほっといてこっちおいで」
「え、まじで!? この切なさヒロが埋めてくれんのうわラッキー!」
「わ、ちょ、やめろヒロに近づくな! 緒方あああああ! お前の恋人が浮気してるぞおおおおお!」
樋山がこれ見よがしに寛樹にくっつき、それを引き剥がそうとしながら2−3の窓へ叫ぶという器用なことをやってのける亮介を止めるべきか止めないべきか岸本は悩んだ。悩んで、諦めた。どうせそんなことしている間に休み時間が終わる。
文系と理系のクラスはコの字型校舎の向かい合わせにあり、しかも朝休み昼休み放課後以外行き来ができないようになっている。なんで繋がってないんだろう。もし繋がっていたら樋山もこんなバカなことせず、すぐ緒方の傍に飛んでいってみんな静かで平穏な休み時間が過ごせるのに……と半ば現実逃避しながら岸本は思う。
がらりと2−6のドアが開く。
「へえ、浮気……。じゃあさよならだな」
ここにいるはずのない声が聞こえて、理系クラスの空気が一気に下がった。
ああ、ドアを見たくない。
さてどうするのかと樋山を見れば蒼白で、対する亮介はご機嫌、寛樹は我関せずといった様子。
「ちょ、緒方、これはごか」
「あ、久しぶり。恭介浮気してたぜ」
「亮介……!」
「清水、ありがとう。岩本、それをこっちにくれ。窓から捨てる」
「やめて! ここ6階!」
そろそろ止めなくてはまずいかと思ったときチャイムが鳴った。ちっと舌打ちした緒方はかっこよかった。
「昼休み、憶えてろよ」
吐き捨てて猛スピードで去っていく。いやいや普通に考えて遅刻だろう。
化学の教師がのんびりと入ってくるのを眺め、終始無関心だった秋一を見遣った。