番外編
【鍵の持ち主】 二つ目の鍵を使いますのあとの二人です。
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相談し終えたクラスメイトが、樋山と緒方だけの空間を去る。
キィと軋んだ音を立てて図書室の扉が閉まるのを聞いて、どちらからともなく顔を見合わせた。
「馬鹿が」
緒方が呟くのを樋山は眉間に皺を寄せて聞いた。
「清水だって岩本が好きなくせに岩本が好きでいてくれることに甘えて、いなくなってから欲しがるなんて……。馬鹿じゃないのか」
それはまるで自身に言い聞かせているようで、緒方の目は樋山を見ようとはしない。
「いつまでも相手が自分のことを好きでいてくれるわけがないのに……。信じたいんだろうな」
切なそうに吐く息を聞きたくなくて、掠めるようにキスをした。
いつもは逃げる彼も今日はおとなしいので今度は深く。
しがみついてくるのを感じて幸せだった。
「真司、俺は好きだよ」
「俺もだ」
どきどきしながら滅多に呼ばない彼の名を呼んでみたのに緒方は至って普通。
「俺は、好きだよ」
もう一度、彼へ告げる。訊いてみたくなったのはほんの悪戯心。
「俺が別の人を見たら、また君に振り向かせてくれる?」
「ほお、別の人間に移るのか」
剣呑に眇められた瞳を見てしまったと思うがもう遅い。
「いや、あの……」
「最初から他の人間に移る前提なら最初から俺に恋するな」
「や、ちょっと冗談だって」
「冗談? 当たり前だ。だってお前は――」
しばし無言で睨み合い。
ふい、と気まずげに目を逸らしたのは珍しく緒方の方だった。
「振り向かせて、みせるさ」
囁きよりも小さな声。亮介たちの話が余程堪えたらしい。でもそれで十分だった。
「たまには素直な緒方もいいね」
「いつでも素直だ」
「そーですね。大丈夫だよ緒方、俺は緒方にべた惚れだから」
緒方が本を振りあげる。
図書委員としては本の損壊を止めなければならない、なんて思いつつ彼を力いっぱい抱きしめた。
おわり。