番外編
同じ家の方向。少し遠い家。座席でふたり、今日の宿題をやり遂げる。
「俺ら、なんて真面目なんだ」
真顔で言った彼がかわいくて笑ったらむっとしたように小突かれた。
家に着くなり、姉の真朝が駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「進展なし」
「そっかー」
何事にも執着しなかった暁が初めて何かに拘りを見せたことに気づいたのは姉だけだった。
両親に気づかれても困るので姉に「好きな人でもできた?」と言われた時にはいつになく焦った。真朝も、まさか弟が男に対し恋愛感情を抱いているとまでは思っていないだろう。
「友達と仲良くなれたらいいね」
いつも柔らかい笑みを浮かべそう言ってくれる姉に罪悪感が湧く。
本当は恋人が――男の恋人が欲しいなんて言えるわけもないから、この想いは一生光を浴びることはないのだろう。
「まあ、文系みたいだからあと4年あるし、徐々に仲良くなっていくよ」
「そうだね。焦ってもどうしようもないもんね。ご縁だし」
「真朝、それって恋みたいじゃないの」
「あはは、ごめんね」
軽やかな声を残し、姉が自室へと去っていったのを見届けて暁も自室へ向かう。
手に取るのはBLの本。悠太への恋心を自覚したとき、暁はうろたえるよりも先に冷静に戦略を練った。
普通の恋愛ものでは役に立たないだろうと分析し、過去に読んだ本にそのような系統の本があったことも思いだして、しかし堂々と書店に並ぶのも気が引けてオンライン書店を活用した。
気が小さいのではない。常識というものをわきまえただけだと暁は自分に言い訳している。
では常識とはなにかといえばやはり異性間の恋愛だろうと考えている。子どもが作れるようになれば同性間の恋愛だって徐々に受け入れられていくに違いない。きっとそうだ!
暁が心の中で熱く語っていることなど、外見からはきっと誰も想像できないだろう。
ちなみに暁がBLに手を出していることは家族全員が知っている。ばれたのではない。ばれる前に言ったのだ。決してばれそうになったからではない。
誰に向かってしているかわからない主張は声に出さない分、暁を疲れさせた。
制服を脱ぎ、勉強机に向かい、なのにその手にはBL。我ながら情けないなんて思っていない。これも勉強だ。
なんで、同性間というだけで純粋な恋愛が白い目で見られるのだろう。
暁はただ、恋がしたいだけなのに。