番外編
昔から、恋愛ものを読んでもいまいちぴんとこなかった。
女性に興味がないからかと名賀暁は思ったが、いわゆるBLと呼ばれるものを読んでもよくわからない。男の傍に寄っても欲情するわけではなかったから、恋をしたこともない。
好きとか嫌いとか、なんでそんなに決められるのかがわからない。
もともと、執着はない方だった。手に入れる前に、諦めていた。
感情の起伏が小さいどころかほぼないに等しいのだと悟ったのは小4になってからだった。
学業の成績は優秀だったから、両親は暁が公立の授業に飽いているのだろうと見た。間違いではない。
同世代と戯れるよりはひとりで問題集を解いてる方が落ち着いた。
中学受験の後、中高一貫の男子校、夏扇学園に入学。併設している幼稚園や小学校からの内部生が大半を占めており馴染めるかと不安だったがいざ入学してみたら楽しかった。
何も知らない子羊たちをうわべだけの笑顔で騙しきることが。
素直で、騙されやすい同級生たち。簡単に扇動され、疑うこともせず、従順に異物を排除する哀れなロボット。
ここでも欲しかったものは得られない。
夏扇学園3年目の中3になり、また諦めそうになったとき、強烈に欲しいものができた。
「悠太!」
下校途中の坂道、後ろから呼びかければ彼はこちらを振り向き、ゆるりと笑った。
一目惚れだった。
彼がクラスメイト達と話す様子を見て、彼もまた、欲しいものがないのだと直感した。
「一緒に帰ろう!」
暁からこの一言をもらうクラスメイト達がどれほど少ないのか、きっと彼は知らない。知らなくていい。
「おお。帰ろうぜ」
その声で彼に駆けより、肩を並べた。何を話すわけでもなく、ただ静かに流れる時間。
帰宅部でよかったとしみじみと思う。
「悠太」
「ん?」
何か話そうとして、喉の奥で霧散していった。呼びかけられた彼は相変わらず薄い笑みを浮かべていて暁も取り繕うように笑った。
「何言うか忘れたよ」
「そうか」
普通の恋愛ではない。彼は絶対に手に入らない。それでも、諦めずにここまで欲しいと思ったのは初めてでその感覚を持て余すかと思いきやむしろ心地よくて。