F
束縛されているとは思いたくない。お互い愛し合ってるんだから、と呟いた後で誰に言い訳しているんだと虚しくなった。
暁。帰って来い。今日は暁の好きなコロッケなんだ。
一緒に食べよう。ああ、でもこんなに夜遅くに食べたら太っちゃうな。
「早く――」
眠っちゃう前に、君の姿が見たい。
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アジトにひとり残った秋一は窓を開けた。夜風が心地よい。
暇なので新薬開発へ思案を巡らせる。
記憶を飛ばす薬。記憶をすりかえる薬。ただの睡眠薬。悪夢を見せる薬。
本格的に人体に害を為す物は作っていないつもりだ。
どこか遠くから人々の歓声が聞こえてきて秋一は窓を閉じた。
ひとりがいい。ひとりが落ち着く。誰かを傷つけ、自らが傷つくことのない静謐な場所を求めていた。
誰か、僕を愛してくれ。
情けない呻き声は誰にも聞き届けられることなく秋一の心に淀んだ。
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真っ暗な部屋の中で、寛樹は右側のヘッドホンに耳を傾けていた。音の主は緒方。
ひとりで真っ最中。時折零れる名は寛樹の幼馴染のもので、ああこいつもかと笑みが零れた。
ディスプレイは消してある。音声は監視のため仕方がないが、さすがに知人の痴態を眺めたいとは思わなかった。
早く終われとぼやいて寛樹もベッドに転がる。
あのまま亮介に会っておけばよかった。会って、攫って。ありえない想像に泣けてきた。プライドに賭けて泣きはしないけれど。
終わったらしい。安心してディスプレイをつけると生真面目な男の気だるげな横顔が映った。
他人の生活を盗み見ることに慣れたのはいつだろう。
自分の生活も、誰かに見られている覚悟で寛樹は生きている。
もし、誰かに見られたそのときは、思いっきり亮介への愛を叫ぼうと決めて寛樹は緒方と共に眠りに落ちた。
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恭介たちが風呂から上がると部屋は綺麗に片付いていて、瑞樹の潔癖さにむしろ呆れてしまう。
「ありがとう」
ようやく落ち着いたらしい亮介が瑞樹へ礼を言う。瑞樹は肩を竦め、ゴミ袋の山を指差した。