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「またみんなで遊びたいなあ……。あと、恭介に伝えといて。いつでも代わるからって」
「お前、亮介は」
「俺だって会いたいよ」
淡々と告げる幼馴染にかつて知った柔らかさはない。
「会いたいんだよ。抱きしめたい。じゃあね、瑞樹。あんまり悩むと禿げるよ」
「うるさい」
ひらりと手を振り闇に消えた寛樹を追いかける気にもなれなくて綺麗な月を見上げた。
恋をしたことのない瑞樹にとって、幼馴染たちの行動は理解できない。
「わけがわからないよ」
誰にともなく呟いて、開ける気になれない扉を見つめる。夜風でビニール袋が耳障りな音を立てる。
いつまでも立ち尽くすわけにはいかない。
意識的に笑みを作り扉を開けた。
「瑞樹、3人で入るぞ!」
「……狭いじゃないか。お湯がなくなる」
「なんとかなるさ」
「いつでも代わるらしいよ」
亮介を膝に抱き、無理してはしゃぐ恭介に会話を無視して告げると表情が曇った。
「知ってる」
憎々しげに歪められた頬、鋭く扉を見遣る恭介。なんでこんな面倒なことになった。
「3人で楽しむぜ。まずは亮介を洗わなきゃな」
「まずは恭と亮で入ってきて。俺はこの汚い部屋をなんとかしたい。じゃないと眠れない」
ぎゃあぎゃあと喚く恭介とついでに不満げな亮介を風呂場へ押しやり、恭介の下着ついでに買ってきたゴミ袋を構える。
どうか一時間で片付きますように。
『おっふっろー。あっわっあわー』
恭介の楽しそうで意味不明な歌が反響して聞こえてくる。
ふと自分の口元が緩んでいることに気づいて、慌てて両手で頬を打った。
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暁はまだ帰ってこない。彼に見せようと思っていた結婚式の招待状を片手で弄ぶ。
悠太の高校時代の友人、緒方真司が結婚するとのこと。羨ましいと思うより前に、素直に祝福していた。
暁は悠太に何も告げずふらっといなくなるくせに、帰ってきたときに悠太がいないと機嫌が悪くなる。だから、暁より帰宅が遅くなるときは事前に知らせるようにしている。