図書室の主 | ナノ

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 亮介の頬を突くと瞼が薄く開いた。髪を触るとべたついている。

「最近落ち着いてたのにな。どうした」
「ん……」

 拗ねたようにそっぽを向く亮介をあやし、瑞樹に風呂を沸かしてもらう。

「瑞樹、着替え持ってきた?」
「もちろん。恭は?」
「俺、風呂上がりに洗濯してない下着着ても大丈夫なんだ」
「……買ってくる。サイズ変わってないか?」
「もう成長しないよ」
「ばーか。太ったんじゃないかって訊いてんの」

 軽口を叩いて財布片手に瑞樹が部屋を出る。それにしてもすごい部屋だ。汚い。あの綺麗好きの瑞樹が何もしないわけがないから、きっと何もできないくらい亮介がごねたのだろう。

「恭介」
「ん」
「ヒロに会いたい」
「……そっか」
「ヒロに会いたいよぉ……」
「そうか」

 亮介の熱に浮かされたようなうわ言を聞いても心が動かされない自分はきっと冷たいのだろうと思う。

 そろそろ風呂も沸いただろう。入ってこいと亮介を小突いても嫌々するように力なく首を横に振るだけ。

「おっし、じゃあ瑞樹が帰ってきたら3人で入るか!」

 明るい声を繕い亮介の瞳を覗きこんだら、泣き濡れた目で彼は笑った。笑って、恭介にしがみついて泣いた。

*******

 扉の前で立ち尽くす幼馴染を見つけて、瑞樹は本日何度目かわからない溜め息を吐いた。

「入れば? 君の家だろう?」

 寛樹は瑞樹へ微笑み、首を横に振った。

「亮介の泣き声がさ、聞こえるんだ」
「……」
「きっと中、ゴミ屋敷だよね。瑞樹、片付けてよ。この家、高かったんだよ」

 腕を掴もうとしてかわされた。怒りに満ちた瑞樹の視線を流すように寛樹はゆるりと笑みを浮かべた。


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