図書室の主 | ナノ

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『――なんの真似だ』

 さあね、恭介。明日になればわかるよ。

『これ……取りつけは寛樹か。つーことは監視も寛樹か』

 室内すべての取り付け位置を言い当てた彼はそのまま破壊するかと思いきや放ったまま。意外だ。

『さあな。それくらい悩め。まあ気づいていないふりをしてやる』

 それっきり恭介はこちらへ関心を示さず、恐らく普段通りの生活を始めてしまった。ノートパソコンを引き寄せ、報告書作成。

 帰宅早々、対象に気づかれる。任務失敗。

 一行記し右側のヘッドホンに集中する。緒方はまだ帰らない。気づけば朝だった。

 翌朝、恭介は何も言わなかった。寛樹も淡々と過ごし、暁に報告書提出。
 恭介が暁から依頼を受け取り表情を歪めアジトを去るのを寛樹は複雑な気持ちで見送った。

*******

 気持ちは焦るのに何する気も起きなくて、気づけば恭介は真司との思い出の場所にいた。

 別れたあのとき以来、ずっと避けていた場所。
 図書館裏の海。ここからの眺めは最高なのに、なぜか人が寄りつかなくて男ふたりでいるには絶好の場所で甘い時間がゆっくりと過ぎていく感覚が好きだった。

 どうする。

 彼を――社会的に――殺害。

 甘美な響きだった。彼を再び自分のものにするチャンスだと一瞬でも思ってしまった自分をこの海に沈めたい。

「真司……」

 溜め息と共に吐きだされた彼の名は風に紛れて消えた。
 監視の盗聴器とカメラ。至って普通に過ごした。外された気配はない。恐らく今後も続くだろう。寛樹の個人的な趣味で。

 なんで自分の周りは悪趣味な人間が集まるんだろうと現実逃避しようとしたときケータイが鳴る。

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From:瑞樹
Subject:
亮介の家、来い
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 またかと舌打ちしたい気分だった。
 無視しようかと思い、結局それができない自分の甘さを嗤う。


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