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これは相当来てるなと溜め息吐きたいのをぐっと堪え、再び腰をおろし亮介の髪を掻き回す。
声を殺して泣く亮介を何も言わずに抱きしめて、今ここにいないふたりの幼馴染たちへ心の中で嫌味を吐く。
お前たちが、得体のしれない職に就くから俺らはこんなに不安になるんだ。
恭介は恋人と別れてからおかしくなるし、寛樹は相変わらず男も女もたらしこむし、それを止められない亮介はぼろぼろだし結局尻拭いは瑞樹ひとりが奔走している。
もう嫌だと投げだすのは簡単。それをしないのは幼馴染たちが瑞樹の中でそれなりに大切だからだ。
ふと、亮介の泣き声が止んだことに気づく。目の前のぐちゃぐちゃに濡れた瞳が真ん前にあって唇を奪われた。
「お前憶えとけよ」
亮介を突き飛ばし、なにがおかしいのかずっと笑い続ける姿を背筋が寒くなりながら見つめる。
寛樹、早く戻ってこい。
こいつがいつまでも君のことを好きだと思ってたら痛い目にあうよ。
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だるい体に鞭打って寛樹はホテルの別室へ向かう。忘れ物をするほど、物を持っていない。金はベッドサイドに置いておいた。睡眠薬もばっちり最中に唇から流し込んだ。問題ない。
ポケットから慣れた手触りの鍵を取り出し別室、寛樹の普段使いの部屋を開ける。入口の姿見で男が残した痕がばっちり見えて顔を顰めた。
もう何日、恋人の待つ部屋へ帰っていないんだろう。数えるのはやめた。でも、いつだって数えることができる。あの部屋を去った日付けは忘れようにも忘れられないから。
いつ誰に襲われるかわからない。自身の安全を守るために住居を転々とする日々。今ではホテル暮らしが続く。他の3人だって似たようなものだ。
体を引きずるようにしてベッドへ転がり盗聴用のヘッドホンを装着。何も聞こえてこない。緒方も恭介もまだ帰っていないらしい。
録音をしているから万が一眠りに落ちたとしても大丈夫だ。ありえないけれど。
楽しみはあくまでお楽しみ。それが仕事に影響を及ぼすならば最初からやらない主義の寛樹はそれなりにこの仕事へプライドを持っていて、そしてしがみついていて捨てられない。恋人の制止を振り切っても。
かたり、と左側のヘッドホンから音がして、DVDプレーヤーを改造した受信機の電源を入れる。
不機嫌そうな恭介と目が合って苦笑いするしかない。