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感傷的な寛樹を横目に暁は笑いだしたい気分だった。それが誰を嘲笑っているかは見ないようにして。
「さあ、帰ろう」
「そうだね」
肩を竦めてアジトへ向かう。扉を開けばいつものごとく仲良く言い争う恭介と秋一がいた。
何かにつけ喧嘩するふたりを、正確に言うと一方的に秋一へ突っかかる恭介を寛樹は責められなかった。
「俺、気分悪いから先に帰るね」
へらりと笑い、秋一と暁の咎めるような視線を交わすようにくぐったばかりの扉をすり抜ける。
まったくみんな芝居がかっちゃって。仕事熱心なのを褒めてほしいくらいだと寛樹は天を仰ぎ用意されたホテルの一室へと向かった。まだ時間はある。ちょっと楽しんだって罰は当たらないだろう。
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幼馴染の家で岸本瑞樹はげんなりしていた。家主の清水亮介が遊びに来いと言うので行ってみれば完全に出来上がっていて、酒瓶を離そうとしない。
「瑞樹ぃー。ちゅー」
「やーめーろ。俺は寛樹じゃない」
「べーつにいーじゃーん。どーせヒロも浮気してんだよー」
「だからって俺と亮がちゅーする理由にはならないでしょう」
「恭介はしてくれたのにー」
「はいはい」
慣れって恐ろしい。最初はぎょっとしていたけれど今で軽く流せる。それもこれも幼い頃から知っててかつ自分の懐が深いからだと半ば自虐的に瑞樹は笑った。
寛樹から室内へ視線を移せば転がる酒瓶、洗濯物の山、散乱するゴミ、いつから洗ってないか聞きたくもない食器たち。
まずはゴミから片付けようとソファから立ち上がろうとするとがしっと腕を掴まれた。
「瑞樹までどっか行くのかよー」
「俺はどこにも行かないよ」
「なあ瑞樹ー。俺って魅力ないー?」
「今の亮はな」
「恭介は魅力的って言ってくれたのにー」
「だったら恭呼べよ!」
軽く叱りつけるとしゅんと項垂れて、綺麗な瞳にみるみるうちに涙が溜まる。