図書室の主 | ナノ

F

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「Fと呼ばれるスパイ集団がある。その存在こそ知られているものの実態は明らかではない」
「当たり前だろ!」

 ネットでFについて検索していた秋一が読み上げた一文はスパイ集団として至極尤もなもので、恭介が頭をすぱんと叩くと不服そうにふんぞり返って挑戦的に見上げてきた。

「僕は書かれていたものを読み上げただけだ」
「そりゃそうだけど! なんで存在が知られてるの!」
「知らん。恭介が失敗したんじゃないのか」
「なんでそんなむかつく言い方するかなあ!」
「そもそも存在が知られていなければ依頼も来ないだろう」
「正論言うな!」

 そんなふたりを横目に暁と寛樹は優雅に紅茶を啜っていた。

「平和だねえ」

 暁の呟きに誰も応じない。寂しいなあ、なんて思ってないことをもう一度呟いて手元の調査対象の情報を見る。おもしろいことになりそうだ。

「恭介、ちょっとこっち来て」
「もうそれどころじゃない!」
「来て」

 有無を言わせぬ響きで呼ぶと渋々暁のもとへやってくる。まったく最初から素直になればいいものを。

 情報ファイルを恭介に手渡し彼の表情を観察する。

「今度の調査対象はこれだ。やれ」
「はいはーい」

 受け取りぱらぱらと捲った恭介の表情が一瞬強張った。しかしすぐにいつも通りの柔らかい笑みを浮かべる。つまらない。

「まったく暁ってば仕事選びが的確だね」
「褒めてくれてありがとう」
「いえいえ。じゃあ、俺、行ってきます」

 ショルダーバッグを片手に部屋を飛び出す恭介を誰も見向きもしない。

「さあてどうするのかなあ」

 その言葉に寛樹が微かに動揺したのがわかった。まったくここにいる連中、本当にスパイ失格じゃないか? そっと溜め息をついて暁は窓の外の恭介を見下ろす。

 Fと呼ばれるスパイ4人はビルの一室でひっそりと活動している。

******

 まずい、ばれてると恭介は地面を睨みつけ舌打ちをした。


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