図書室の主 | ナノ

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「だって、言ってきたのは樋山だろう。それに、そんな理由で断って諦められるのか?樋山自身が嫌いなわけでもないのに。 ――なんだその顔は。もしかして、断られる前提で俺に言ったのか? 最初から負けるつもりの勝負ならするな」

 ごもっとも。厳しいお言葉に樋山は圧され頷いた。

 そういえばここ最近彼が嵌まっているのは歴史小説だ、なんて思い出して笑いが漏れた。

 拒否されていない。安心しすぎて涙が出てきた。


「ところで、質問させてほしいんだが」
「なに?」
「ひとつめ。タイムリミットは?」


 すっと心が冷えた。そうだ、期限を決めなくては。いつかはふたりともこの学園を去る。そのときまでずっと片思いというのはつらいけど、と樋山はそっとその可能性に蓋をする。

 緒方が振り向いてくれるまで、と答えるのは簡単だけれど。

 樋山が悩んでいると緒方が提案してきた。


「とりあえず、終業式の日まではどうだ?」
「三カ月」
「そう。三カ月。想いを溜めこんでいるから自分の中で気分が盛り上がって、本当は俺のことが好きじゃないのに好きだと思いこんでるのかもしれない。とりあえず俺に告白したから、意外とあっさり冷めるかもしれないぞ?」


 三カ月。――三カ月。長いのか短いのかわからない。


「もしそれで駄目だったら?」
「そのとき考えればいい」
「わかった。ありがとう、緒方」
「じゃあ、質問ふたつめ。恋人になって、俺とどうしたいんだ」


 俺は付き合ったことがないぞ、なんて言って真顔で。そう言われて樋山も固まった。

 そういえば恋人って何するんだっけ。


「ちゅ、ちゅー?」


 疑問形になってしまった。緒方も呆れている。けれど樋山にはそれくらいしかイメージが浮かばないし、けれどキスに憧れているわけでもない。もっと言うなら、緒方のことは好きだけどキスしたいわけではない。

 はあっと大きく緒方が溜め息を吐いて、怒らせたかと内心震えたけれど。


「まあそれはおいおい考えるとして――頑張れよ、片思い中の樋山?」


 チャイムが鳴る。にやりと笑った彼を見て、好きだ、と小さく呟いた。


おわり。


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