図書室の主 | ナノ

ハッピーエンドは認めない

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 そんなふたりを斜め後ろから見つめる男がふたり。
「なーんか、こうして見るとさ、夏扇の男って本当にいい男だよね。ふたりともかっこいい。そう思わない? 瑞樹」
「思う」
 母校の名前を出し、臆面もなく言い切る宗教画の天使みたいな男は真司の恋人である樋山恭介。苦笑気味に同意したのは、恭介よりも頭一つ分背の高い優男、秋一の恋人である岸本瑞樹。
 それぞれの恋人が、最近どこかよそよそしい。なら幼馴染同士で相談会兼ねてぱっと遊ぼうということになり、瑞樹と恭介が待ち合わせたら遠くに恋人の姿が見える。
 趣味が悪いと思いつつ追うことを提案したのは瑞樹で、恭介はといえばその提案を聞く前に瑞樹を引っ張ろうとしていた。
 なにやら必死に話し込んでいる真司たちはまったくこちらに気づいていない。
「恋人同士ですること、ね」
 苦々しく笑った恭介はテーブルに突っ伏す。まったく、こちらがどんな思いで欲を抑えてるかも知らないで、あんな寂しそうな顔しちゃって。
 そんな恭介の髪を梳って遊んでいる瑞樹も、会話にはしっかり耳を傾けている。
 今、向こうのふたりは「デートができたとしたら」を話している。そんな場所、友人同士で行くこともあるのに。付き合ってるというだけでここまで過敏になってしまうなんて。まあ、母校の性質を考えたら仕方がないのかもしれないけれど。しかし瑞樹はそれらを口には出さない。
「瑞樹ぃ……。俺、限界かも……。最近、まともに真司と話してないんだよ」
「そう。倦怠期で一気に別れるタイプだね」
「そんな意地悪言わないでよー」
 恭介が立ちあがる。その後を瑞樹が追った。
 恋人の登場に気づいた真司たちが蒼褪める。真司の横に座った恭介と、秋一の横に座った瑞樹。瑞樹は「見ていい?」とちゃんと秋一に許可を取ってから、興味深げにノートを見ていた。
 真司は俯き、目を固く閉じている。
「馬鹿だなあ、真司は」
 動揺している彼の耳元で囁いた。「恋人は、何をやっても恋人なんだよ」彼の瞳が見開かれる。
「恋人同士ですること、ね。瑞樹は?」
「えっち」
「却下」
 真顔で言った瑞樹の意見を一刀両断し、恭介は秋一と真司に笑いかけた。
「じゃーあー、デートじゃなくて、普通に何がしたい?」
「本屋行きたい」「パフェ食べたい」
 すぐさま返ってきた答えに、ふたりらしいと思いつつ溜め息を吐かざるをえない。瑞樹はといえば、「じゃあ、今度行こう」とにこにこしている。はっきり言って、幼馴染のでれでれした様子はあまり見たくない。
「まあ、何をしたいか聞いたのはこっちだし……。そんなに焦らなくてもいいからさ、ふたりでしたくなったことがあったらそれぞれの恋人に言う、それでいいんじゃない?」
 不満そうな真司のこめかみに、さりげなくキスを仕掛けた。唖然とする三人へ艶めかしく笑い、真司にもたれかかる。
「ね、いいでしょ?」
 もし、真司と恭介の関係を知らない者がこの様子を見たら、恭介を女役と思うに違いない。そんなどうでもいいことを考えつつ瑞樹はふたつの伝票を手に取り、溜め息を吐いた。



<プロローグ>おわり。


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