図書室の主 | ナノ

ハッピーエンドは認めない

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 とあるファミリーレストラン。ジュースバーからそれぞれ好きな飲み物をとり、着席。
 緒方真司と岸本秋一は頭を抱えていた。
「どうする……?」
「んー……」
 秋一の問いかけにも真司は呻くような声しか返さない。
 ふたりには同性の恋人がいる。付き合ったからにはなにかしたい。しかし何をすればいいかわからない。
 ここでの問題は、同性ということではない。もちろんそれもあるが、今の恋人に出会う前は、異性にせよ同性にせよ恋人がいたことがないというのが問題であった。
 中高を男子校で過ごし、秋一はひとりっ子、真司は兄がいて身近な異性と言えば教師か母親、お手本がいない。
 読書家である真司の知識も、実践では役に立たなかった。
「恋人って……何をすれば恋人なんだろうな」
 付き合ってしばらく経った日のこと。疑問に思った秋一は数少ない友人であり、自分たちよりも早く付き合っていた真司に相談した。しかし、相談を受けた真司も考えた。特に何かしたわけでもない。これで、本当に恋人同士と言えるのだろうか。
 かくしてふたりは休日、ファミリーレストランで頭を抱えることとなった。もちろん、恋人には内緒だ。
「性行為とか?」
 ぽつりと秋一が零したあからさまな言葉に真司が固まる。
「あー、それ、“性行為だけが愛情表現じゃない”って言われてそれっきりだから、俺たちはパス……」
「なるほど。確かに、ココなら言いそうだ」
 気まずげに言った真司に秋一は頷き、ノートを広げた。
「一応、恋人同士がしそうなことをまとめた」
 びっしりと書かれている文字に、普段活字中毒とも揶揄される真司でさえ眩暈がした。真司が考える理系人間とは「変なところで几帳面、必要なところでずぼら。興味の対象はきちんと向き合うが対象外だと眼中になし」である。そして、この友人そのものが真司の理系人間の定義である。
 試しに真司が次のページを捲ると空白。多少ほっとした。指で辿りながら真司は読み上げていく。
「誕生日、バレンタインデー、ホワイトデー、デート、キス……」
 恋人たちがしそうなことだけでなく、起源まで書いてある。ページが埋め尽くされているのはそのせいだ。
「とにかく、岸本秋一は、主にイベントを一緒に過ごすって言いたいんだな」
「そう。緒方はどう考える?」
「んー。外出くらい、だな」
 デートという言葉が気恥ずかしくて、敢えて素っ気ない言い方をする真司とそれに照れた秋一が意味もなく頷く。
「恋人ってさ」
 真司は目を瞑り、頭の中に浮かんだ情景を言葉にしていく。秋一も気分を落ち着かせようと息を吐く。
「手を繋いだり、何気ない一言で笑いあったり、黙って抱きあったり……?」
 真司が言葉を切り、思わずふたりで見つめあった。どれも、明らかに同性とわかる恋人同士でできることではない。
「ただ、好きなだけなのにな」
 秋一が零した、切なさの滲む声に真司は項垂れた。


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