2012七夕
じりじりと恭介へ迫ろうとする緒方を必死で止めつつ、緒方へ飛びつきそうな恭介も止めるという我ながら器用なことをしながら、瑞樹は幼馴染へ吐き捨てる。
「緒方を犯罪者にしたくなかったら落ち着け」
「瑞樹は恋したことないからわからないんだよ!」
まったく通じる様子がない。さてどうしたものか。緒方はなかなか力が強い。朝休みが終わるまで止めることなんて不可能だ。
「岸本、ほっとけ」
秋一が素っ気なく言う。暁は楽しそうにこちらを見遣っている。
「でもさー。年に1回しか会えないって嫌だよねー。まあ確かに卒業しちゃったらみんなばらばらだけどさ」
寛樹がぽつりと呟き、みんなしんみりとしてしまい、教室の時の流れが止まったように感じられた。
緒方も振りあげた腕を下ろしており、恭介は膝を抱えていた。
「おい、樋山」
緒方が冷たく恭介を呼ぶ。なのに恭介ときたら嬉しそうに笑っていてまさに恋は盲目だと思ってしまう自分は幼馴染たちにどうも甘いと思う。
「俺と1年に1回しか会えないとしたらどうする」
答え次第によっては一生口をきかないぞ――言外にそんな声を読み取り恭介が青ざめる。まったく忙しい奴だ。内心恭介にべた惚れな緒方が恭介を手放すはずがないことを、傍から見ててもわかるのにどうやら本人たちに自覚はないらしい。
恭介が答えに窮していると、暁が口を開いた。
「俺は悠太に会いに行くよ。友達だからね、1週間に1回会ってもいいくらいだ」
「俺はそんなにはいいかも」
あっさりと言った悠太に暁がショックを受けているのがわかる。
平静を取り繕おうとしているが、コンタクトなのにない眼鏡を押し上げている時点で彼が動揺していることなんてお見通しだ。
鈍感って罪、前途多難だが頑張れとこっそり瑞樹は暁へエールを送る。
「秋一は? どう? 俺と会えなくなったら――」
軽いノリで言ったのに鉄拳が飛んできて慌てて避ける。ちっと舌打ちを隠そうとしない彼の本気の睨みを受けて、瑞樹は身の危険を感じ逃げ出した。
*******
「ばっかだねー、瑞樹は」
瑞樹が逃げ出し秋一がそれを追う。 げらげらと笑っている寛樹を諌める意味を込めて軽く頭を叩くと寛樹は不服そうに亮介を見上げた。目の前では依然として恭介を睨み据える真司が。