クラッキー/バトスピ3期
目の前に彼が、弾がいるのに話しかけられない。
あんなに楽しげにまゐとしゃべってるんだもん、入る隙がなくて。
あたしのときはそんな顔しないのに、まゐの時ばっか。
あたしは弾のなんなんだろう。
あたしはなんでここにいるの?
世界を救うなんて大それたこと、出来るはずもないじゃないか。
弾に自分の意思でついてきたわけじゃないのに。
……あれ、あたしどうやってここに来たんだっけ?
まあ、いいけど。
あ、弾と目があった。
ニヤリと意地悪く細められた目に込められる意味はなんだろう。
気づいてるよね、あたしが弾のことを好きってさ。
ホントに惨めで、最悪。
まゐのことをちょっと嫌いと思ってしまう自分は醜い、とても。
これ以上自分の醜い部分を認めたくなくて、にげたあたしは弱い。
「あーうー、もうやだ」
「まったく君はねえ、何も言えないよ」
どうせ弾とまゐが話しているところを目撃して誤解でもしたのだろう、名前が僕の元へ来るのはこれで何度目だろうか。
そんなに辛い思いをするなら弾なんてやめてしまえと言いたくなる。無駄だとは解っているけれど。
真ん丸の黒い眼が濡れて揺れる。
ああ、弾君は彼女にこんな表情をさせているんだよ?
君じゃなければいけないのをよく理解しているはずだろう。
名前も名前だ。
不毛だと思っているなら諦めれば良いのに。
その都度泣きに来られる僕の身にもなってほしいものだ。
だっていやだろう?
好きな女性が他の男のせいで泣いて、駆け込み寺になるなんて。
俯いて顔を見せなくなった名前の頭をそっと撫でれば、少し肩を跳ねさせて僕の方を向く。
困ったような微笑みは今にも決壊しそうで、やるせなくそして煮え切らない。
ふと考えてみた。
何故弾はわざと名前を傷つけるような行為をするのだろうか、と。
ベイベ、ましてや好意を寄せる人物にそんなことするなんて僕としてはわからないし理解もしたくない。
嫌われる可能性を考えていないのか、それとも嫌われないという絶対の自信があるのか。
紛れもなく後者だろうな、断言だってできるさ。
心が締め付けられる、辛くて苦しい。
名前と出会って初めて体験することばかりだ。
けれど名前の心を占めるのは弾でしかあり得ない。
どうしたら、どうしたら僕を、君は。
撫でていた手を髪へと移動させる。サラと指の間をすり抜ける綺麗な髪に目眩さえしそうだ。
こんなにも愛しくて仕方ないのに。
届かないなんて、なんて悲劇。
「弾じゃなくて僕にすればいいのに、なんてね」
「……ゴメンね、クラッキー」
また困り顔で尚且つ泣きそうに顔を歪めながら呟いた名前を見ながら思考が中断する。
まさか、そんな。
名前は僕の想いに気づいていたのだろうか。
あえて気づかず知らない振りをしていたの?
慈悲なのかその逆なのかは、残念ながら判別はつきそうになかった。
感情が理解できずコントロールが辛い。君はズルいね。
小さく呟かれた僕の言葉は名前に届いたかはわからなくて。
でもまた君が泣きそうになるから、届いてしまったんだと僕は思う。
君の心は2オボロスじゃ足りないんだ死から生還しようとも、君の心は彼から動かないのかい?
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