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「今日、トオルんち行ってもいい?」
「え、いいよ」
「じゃあ帰りまっすぐ行くわ」
「オッケー」

 吉川が昼休みを終えた後からおかしいってことには気づいてた。その理由を、俺は知っていた。
 きっと仙石が言ってたことだろう。綾崎さんが吉川のほうに行ってるとか言ってたしな。
「ねえトオル、ユキなんか変じゃない?」
「そうかぁ?」
 自分で思う。わざとらしい、と。
 本当は言ってやりたい。堀のことで悩んでるんだよ。吉川は大好きな堀のことで頭がいっぱいなんだよ。
「ならいいけど。相談とかされたらちゃんと乗ってあげてよね」
 トオルにしか言いにくいこととかもあるだろうし、堀はそう付け加えた。


「仙石から聞いたんでしょ?」
「あぁ、聞いたよ」
 俺はベッドの縁に体を預けて、吉川を抱き込むかたちになる。いつのまにかこの態勢は“普通”になっていた。コントローラーを握る吉川の指は、白くて細い。
「私は言ったほうがいいと思うよ」
「ほお」
「いずれ言わなきゃいけないときがくるでしょ」
 静まった部屋に、カコカコというボタンを押す音だけが残る。
「言わなきゃさ、宮村が愛さなきゃいけない人を愛せないんだよ?」
 目を張った。
 吉川は愛というものを信じない。それはいままで一緒にいて、ひどく感じたことだった。
 愛が無くてもキスができる。愛が無くても、子供を作れる。
 代名詞なんていらない。あってもなくても変わらないから。
「宮村は堀じゃなきゃダメだよ」

 吉川はそれだけ言って、俺に抱きかかえられながら寝た。
 しかたないからベッドに寝せたら、ありがとうトオルと言った。


(朝起きたら彼女はいない)(残るのは背中の温もりだけだった)




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