エピローグ



「記憶がなかった時の記憶がないの」
「そうなの?」
「私が記憶をなくしてる間に何があったの?」
「何も」
「トオルとユキの態度を見る限り、そうとは思えないんだけど」
「そうかなぁ」
「教えなさいよ」

少し前にでは考えられなかった会話だ。堀さんは完全に治ったらしい。
そして俺が嘘を吐くのが苦手だというのをいいことに、ぐさぐさと質問攻め。

「知らなくてもさ、いいんだよ」
「私は嫌よ」

堀さんの眉間にしわが寄る。あからさまに不服そうだ。
でも言えない。堀さんには悪いけどね。

「ところで、今日の午後って暇?」
「話題を変えないでよ」
「いいからっ」
「暇…だけど」

堀さんの記憶が戻ったら、してあげたいことがあった。
それは俺たちの再スタート。堀さんが記憶をなくす前からの、大事な約束だからちゃんと果たしてあげたい。

「二人でおでかけしようよ」
「え」
「いや?」

そうじゃないけど、途切れ途切れでいう堀さんはやけに愛しく見えた。

「じゃあ、準備するよー」

信じたら戻ってくるって信じてた。信じてたらちゃんと戻ってきた。
穴がふさがって分かった。
大事にしてくれる人がいる。大事にしたい人がいる。
それはとても素晴らしいことで、欠いていけないものだと分かった。

手を伸ばすと、すぐそこに君。

同じテンポで歩く二人。
どちらかが転んだら、手を差し伸べよう。
支えて、支えられて、俺たちは今―――


fin.

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