12
公園に吹く風はひどく乾いていた。日光は嫌味のように降り注ぐ、しかし気温は低い。
俺の目の前には、黒いデニムに黒のカットソー、少し長めの黒髪をした男が立っていた。
「もう来るなって言っただろ」
「別にいいじゃん。たまにはさ」
まるで鏡だ。今の自分とは正反対。心も、周りに流れる空気も違う。
「堀さんは、お前のせいなんだろ?」
「まあね」
そいつは当然だ、とでも言うような顔をする。
最後に会ったのはいつだったか。俺はその時、そいつからの問いかけに目をそらすことしかできなかった。あの時の血の味、不愉快な記憶が頭の中に湧き上がってきた。
「お前は、堀さんと話して、何がわかったんだよ」
「…俺と会ってる時、あの人はどっか違うとこを見てた気がする。どっか遠いとこ。それに、1回だけだけどさ、お前のこと言ってたよ」
「は?」
「ケーキ屋の息子で、顔が俺によく似てるって言ってた。あの人が自分以外の話をしたのは、その1回だけだったんだよ」
ひどく、自虐的な声だった。
「あの人が、ずっとお前の傍にいると思うなよ」
気が付けば、声が出てた。
「いるよ」
そいつが目を張った。
堀さんは、ずっと俺と一緒にいる。これは俺の確信だ。俺が思ってるんだから、こいつも同じことを思ってるはずだ。嘘吐き野郎が。
「分かってんだろ? 堀さんと俺はずっと一緒。わかってたけど、正直に言えないんだろ?」
「…違う」
「違くない」
「違うッ!」
「俺はもう、黙らないよ」
あいつの肩が下がった。目線がななめ下を向いている。
「まだ一人なのかよ」
「まだね」
「穴、ふさがんないの」
「もう少し」
「じゃあ、ふさがったら、ふさがったらまた来いよ」
「…いいの?」
「いいよ」
一瞬だけ、目があった。長い前髪があるから、先が見えないんだ。わかってるくせに、怖がって前髪を切れないでいる。昔の、俺だ。
「穴がふさがったら、だぞ」
「分かったよ」
空っ風が吹いた。粒の大きい砂が舞い上がって、視界を遮った。目をこすって前を見ると、そいつはすでにいなかった。
立っていた場所に足あとも残さずに。まるでいままでの存在をすべて消し去ったように。
「バーカ」
泣いてんじゃねえよ。
(砂の上に滴だけ残して)
(約束の時まで、俺は来ません)
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