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「はァ? 記憶が戻ったぁ!?」
頭の中が一気に動いたせいか、疲れて眠ってしまった堀さんを再びソファに寝かせ、石川くんに電話をかけた。
堀さん、俺の記憶も取り戻してくれたよ。
そう言うなり石川くんは素っ頓狂な声を上げた。
「うん、いま寝てるけどね」
「マジかぁ…」
電話越しに安堵のため息が聞こえる。つられて自分もため息をついた。
「とりあえず今日は寝かせとくよ。ほかの人に連絡お願いしてもいい?」
「もちろんいいぜ」
電話を切ってから、ソファに横たわる堀さんに目をやる。
部屋にはまだ甘い香りが漂う。このケーキもどうしたもんか、と頭を悩ませた。
○
「私、思い出したよ」
「何を…?」
「宮村のこと」
堀さんはケーキの切れ端を口に含み、それを飲み込んだ。そして目を見開き、そう言った。
「私、宮村と付き合ってる」
「そうだよ…」
頭がくらくらした。
また、恋に落ちた気がした。
付き合ってた、じゃなくて付き合ってる。そういう小さいけど大きな表現をするあたりが彼女らしい。
気が付けば堀さんの細い体を抱きしめていて、堀さんは俺の名前を呟いた。
「伊澄」
力なく膝から崩れ落ちて、俺はそれを受け止める。
「思い出すの、遅いよ…」
○
堀さんは昼間の2時ぐらいに寝込んで、そのだいたい5時間後、夜の7時に目を覚ました。
目をこすって、ソファから起き上がると開口一番、
「おなかすいた」
できたケーキとホットミルクを出すと、満足げに笑った。
「いつもの感じだ」
ケーキをフォークでつつきながら、堀さんが言った。
「そうなの?」
「うん」
一番この距離が落ち着く。心も体も、一番近い。互いを最優先し合える、このかんじ。
(改めなくても君が好き)
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