「ねえ、宮村!」
朝、教室につくと堀さんに声をかけられた。昨日聞いた話が頭から離れず、声が心なしか暗い。
「何?」
「そろそろね、彼氏の誕生日なんだ〜」
なんだか頭を殴られた気がした。眩暈を何とか隠す。
「だからケーキの作り方教えて!」
彼女の顔は久しぶりに見た、満開の笑顔だった。
「いいよ。堀さんちオーブンあるでしょ? それで作れるから」
気が付けば偽物の笑顔で答えていた。
夢見る少女にもっと夢を、希望を、幸せを。
「買っといたほうがいいもの、あったらメールしてね」
「うん、オッケー」
ため息しか出ない。きっと白髪だらけになるな。そして幸せはすべて零れ落ちる。彼女の笑顔がもっと見たかった。いまはそれしか望まない。
重い頭をなんとか回転させながら、ケーキのレシピ集をぱらぱらと捲った。
(夢だったら、どんなに楽だろうか)
▼ ◎