7.5



「ねえ、宮村!」
 朝、教室につくと堀さんに声をかけられた。昨日聞いた話が頭から離れず、声が心なしか暗い。
「何?」
「そろそろね、彼氏の誕生日なんだ〜」
 なんだか頭を殴られた気がした。眩暈を何とか隠す。
「だからケーキの作り方教えて!」
 彼女の顔は久しぶりに見た、満開の笑顔だった。
「いいよ。堀さんちオーブンあるでしょ? それで作れるから」
 気が付けば偽物の笑顔で答えていた。
 夢見る少女にもっと夢を、希望を、幸せを。
「買っといたほうがいいもの、あったらメールしてね」
「うん、オッケー」

 ため息しか出ない。きっと白髪だらけになるな。そして幸せはすべて零れ落ちる。彼女の笑顔がもっと見たかった。いまはそれしか望まない。
 重い頭をなんとか回転させながら、ケーキのレシピ集をぱらぱらと捲った。


(夢だったら、どんなに楽だろうか)


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