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「いらっしゃい。入って入って」
 ラフな格好をした宮村が扉を開けた。メンバーは俺を含めた、吉川、仙石、綾崎さんの4人。
 宮村の部屋に入るまでの時間が長かった。いつもの廊下もいやに冷たく、小さな物音がメガホンを通したように大きく聞こえた。

「あの、さぁ」
「何?」
「もしかしたら宮村にとってはすごく嫌な話になるかもしれないけど、それでも聞きたいと思う? 宮村のこれからの方向をすごく左右すると思うんだけど…」
「え、よくわかんない。何? なんのはなし?」
「堀だよ」
 吉川が不意に声を出した。その口調にはとてもとげがある。早く気づけ、そういっているようだった。
「堀さん? なら、答えはひとつだよ」
「いいのか。もしかしたら宮村くんが傷つくかもしれないんだぞ」
「それなら、寧ろそうだね。俺の役目は堀さんのすべてを受け止めることだ」
 宮村は堂々としていた。傷ついてもいいから、堀のすべてを受け止めたい。
 となりで吉川と綾崎さんが揺らぐ。
「じゃあ言うぞ。仙石と綾崎さんがこの間見たらしいんだ。堀が、中学の元カレと会ってた」
 ミシリ、突き刺さる音。軋む音。
「ヨリを、戻したって」
「そっか」
 返事は早かった。俯いてた綾崎さんがパッと顔を上げる。
「…悲しい?」
「とても」
 宮村はそれしか言わなかった。きっとそれしか言えなかったんだ。
 あの時聞こえたのは、宮村の心が割れる音。

 俺たちはそれだけ言って、静かに宮村の家を出た。
 吉川は上を向いて涙をこらえていた。泣けないんだ。宮村はもっと悲しい思いをしてるのに、自分がすぐ泣いちゃいけないって思ってるから。
「これでよかったんだよ。宮村は堀のこと好きだから。教えなきゃダメなんだよ」
 4人は何も言わずに別れた。隣にいたのは吉川だけになっていた。
「うち、来いよ」
 吉川は静かにうなずいた。





 部屋に入ったら鍵を閉める。俺はネクタイをとって、吉川はその間
にベッドの近くに座る。
 いつもの場所に戻ってきて、吉川は涙があふれた。
 静かに嗚咽をこらえながら、手で目をぬぐいながら。いつもの場所に帰ってこれて、安堵する。
「がんばったよ、吉川は」
 俺はいつも人を慰めるとき、何と言っていいのかわからない。小さな言葉で相手の心をえぐってしまうかもしれない。さっきの宮村みたいに、心が割れる音がしてしまう。

 俺は吉川の肩に手を乗せることしかできなかった。冷たい手がその上に乗る。



(無力な自分と涙)(その悩む頭を撫でてもいいですか?)



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