low 「あっ、ごめん」 たとえば、単純なぶつかるという接点。 「大丈夫だよ」 小さく笑いかけた彼女に彼は何を思ったか。 肩まで伸びるさらさらした髪、それから浮き出るような黒縁の眼鏡。一見、どこにでもいそうな女の子だった。 「秀、そんなに急がなくてよかったのに」 「いやいや」 彼が走り出したのは、教室の入り口から親友である石川に声をかけられたからだ。後ろ側の机とロッカーの間で、彼女とぶつかってしまった次第である。 「今日、仙石んち行かね?」 「あ、あれでしょ。この前言ってたゲーム」 「そうそう」 ドアの近くでだらだらと話していると、後ろで先の彼女が通った。 靡いた髪から漂う香りが心地よい。胸が高鳴るのを感じた。 「あの人、名前なんだっけ」 石川が不意に話題を変えた。 「佐山さんだよ」 「ああ、それそれ」 「可愛いよね」 「そうかァ?」 石川は眉を軽くしかめた。それに対し彼は、胸を張って答える。 「眼鏡がね、ちょっと浮いてるけど外したら絶対可愛いよ」 「へぇー」 彼はどうだといわんばかりに鼻息を立てる。石川がくすりと笑った。 「新しいねらい目?」 「言い方が悪い! ちょっと気になるコだと思ってよ」 「はは」 彼女には聞こえないボリュームで。 新しい恋が芽生える。 20110210 |