初雪が降るまでに
「堀さん、今日、初雪らしいよ」
「えー、上着持ってきてない…」
「コート、貸すから」
「ありがとう…」
寒さに鼻を赤くした堀さんが、ぼそりと何かを呟いた。聞き取れなくて、聞き返す。
「なんか言った?」
「だからぁ…!」
こっちを振り向くなり、腕を組み俺をどなりつけた。
「なんで最近、怒鳴ったり殴ったりしてくれないのよォ!」
「えぇぇ…」
ということはさっき、上着を忘れたの件で怒鳴ってほしかったのだろうか。彼氏の側としてはあまり大事な彼女を罵ったりするのは、遠慮したいのだが。
吹き抜けた風で堀さんのスカートの裾が揺れ、チェックのマフラーに顔をうずめた。
「殴ってよ…」
「無理だよぉ」
「じゃあ、せめて罵ってよ!」
いつも思うんだけど、ここって俺が怒られるとこ? むしろなんで俺が怒られているのかについて、罵ったらいいの?
「んもう…」
カラカラになった落ち葉が、風で地面を這っていく音がする。堀さんの近くまでゆっくりと歩いていくと、むすっとした堀さんの顔がこっちを向いた。
「なんで俺がテメェに怒られなきゃいけねえんだよ、あァ? ったくむかつくんだよッ」
最後に舌打ちを付けて、堀さんの手を握って歩き出した。温かい堀さんの手に力が入る。
やばい、涙出そう。鼻の奥がツンとなる。上を向いて涙が流れないようにすると、視界の端っこで堀さんの頭が見えた。
ちらっと目線を向けると、まぶしい笑顔が待ち構えていた。
「そんなに嬉しい?」
「うん、すごく!」
そんなに喜ばれるとは…。
これ以外に堀さんが喜ぶことって何だろう。たまに考えるけど、あんまり浮かばない。浮かんだのは、ケーキ。それだけ。
「あ…」
不意に空を仰ぐ堀さんにつられて、俺も空を仰いだ。
すると、真っ白い小さな綿が鼻の先にのった。ゆっくりと溶けて、鼻の先を濡らした。
「降ってる…」
堀さんは手でおわんを作って、掌に雪を集めた。それはゆっくりと溶けていくけど、堀さんをより笑顔にさせた。
「きれいだね」
二人で同じことを呟いた。おかしくて互いに笑う。
空は灰色におおわれてるけど、雪は白い。
君の笑顔はまぶしくて、みんなを笑顔にする。
(君の笑顔が見たかった)
確かに恋だった様の『真冬の恋7題』より、お題おかりしました
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