彼のことが好きな理由



たまたまトオルの携帯のニュースで、通り魔の事件が流れただけ。
それだけのこと。
「吉川、今日は一緒に帰るぞ」
「堀と買い物に行くから」
「駄目だ。今日は一緒に帰る」
「…分かったわよぅ」
いつもの帰り道。
いつもみたいにトオルが道路側を歩く。どこでそんな気遣い覚えたの、すごく聞きたい。
「今日、家まで送るから」
「そんな、いいよぉ」
「だぁめ! 俺が送るから」
なんでこんなに優しいの。
なんでトオルは私なんかと、手ぇ繋いでくれんの。
なんでずっと恋人のフリしてくれんの。

私、トオルのこと好きなのかも分かんないのに。トオルは? 私のこと好きなの? 嫌いなの?
分かんないよ。

「今日、近所で通り魔が出たんだよ」
一緒に帰る理由を無理やり訊いた。トオルはしぶしぶ答えた。
だから何よ。
通り魔が出たら私はみんなに優しくされんの。違うでしょ。
通り魔は関係ないよ。優しいのは通り魔が出たからじゃなくて、トオルだからだよ。

優しくされすぎて怖いよ。トオルがいなくなったら私は一人かな。

歩きながらでもいいよ。
話ながらでもいいよ。
私の悪口言いながらでもいいよ。
堀とか河野さんの好きなとこ言いながらでもいいよ。
私のことめんどくさいって言いながらでもいいよ。

私の手だけは、離さないで欲しいな。



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