行先なんて決めてない
※キリリク小説です
この小説はきるけさんのみ持ち帰りokです!
リクエスト:宮堀・暗め
寒いな、そう思ってマフラーに顔をうずめた。
2週間ぐらい前に思い立って家を出た。ちょっとしたことにイライラする、そんな周期とかぶってたからかもしれない。親とけんかをしたのがそもそもの原因だ。
カーキのカーゴパンツにプリントTシャツと、パーカーを何枚か重ねてその上にコート。そのときの服装に少し重ねただけだったので、風が吹くたびに寒気が背中を走る。
黄色と黒のチェック柄のリュックサックには財布と携帯、一応生徒手帳を入れてきた。初日にカイロを多めに買って、あとのお金は食べ物類に充てている。2日目ぐらいに耐えかねて歯磨きセットを買った。
携帯の充電も残りわずかだ。太陽光充電機能付きのストラップを買おうと思ったが、あまりにも高すぎると断念する。携帯には1時間おきぐらいに親と友達から着信が入っている。
「私、どこまで行くんだろ」
駅の待合室や簡易宿を転々として、なんとか野宿だけは回避している。
そろそろ警察ごとになるよなー、とは思っているが今帰っても何をどうすればいいのかわからない。誰かと鉢合わせにあることを心のどこかで望んでたりする。
「さむーい」
何年も住んだ家にある、古いこたつが懐かしい。
そういえば、何日も人と話してないな。いつか声が出なくなるんじゃないか、と不安になった。
「今更帰ってもね、どうすんのよって感じ」
冷静に考えたら親とのけんかには私にも非があったし、あのとき素直に謝っていればことは済んでいたのだと痛感する。
握りしめた携帯が電子音を発した。携帯を開くと、ディスプレイには“宮村”の文字。
私は、宮村からの電話で何を話せばいいのだろう。
いつもは電話が来てもすぐに切っていた。メールは誰から来たかだけ確認して、内容は読んでいない。
通話ボタンをゆっくり押して、携帯を耳に当てた。
『…堀さん?』
「そうよ」
人と、話せることに安心した。
『お母さんたち、心配してるよ』
「…そう」
『そろそろ携帯の充電も切れるよね』
「うん」
『創太もね、堀さんとテレビ見たいって』
「へぇ」
『俺もさ、堀さんと話したりしたいんだけどなぁ』
「私も…だよ」
『帰ってこれないの?』
「帰ってもいいけどぉ、帰ってどうしたらいいかわかんない」
『じゃあさ、俺、堀さんのとこ行くからさ。今どこにいるかおしえてもらえる?』
「いいよ」
ひどく枯れた声で、駅の名前を呟いた。誰も寄り付かないような、廃れて古びた駅。
耳元で携帯の電子音が小さくなる。ディスプレイをちらりと見ると携帯を充電してくださいの表示が出ていた。
『切るけど、大丈夫?』
「うん」
『じゃあ、あとでね』
「待って!」
『どうしたの?』
「あ、ありが――――」
非情の電子音をあげて、携帯のディスプレイは真っ暗になった。無愛想なフォントで『充電してください』。
直接、言わなきゃダメってこと?
凍てつく風をよけながら、駅前のベンチに座った。見慣れない風景に、いつも過ごしていた町に想いを馳せた。
(心の準備をするよ)
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