願望愛情



「仙石く〜ん」
「どうした、レミ?」
たまに起きるこの会話で、なんとなく温度差を感じるときがある。俺がレミと付き合い初めてから、俺はレミを綾崎さんでなくレミと呼ぶようになった。だけど、レミの仙石くんはなおらない。

不安になるこの一瞬。
俺はレミに名字で呼ばれたくないんじゃない。
名前で呼んでほしいんだ。

「仙石くん、誕生日プレゼント何がいい?」
下校しているときに、レミの甘い声が俺にかかる。
「お願い事を、きいてほしいなぁ」
今まで言えなかった一つのお願い。
「なになにぃ?」
「今は秘密だよ。当日にね?」レミはこっくり頷くと違う話題に切り替えた。


「仙石くん、お誕生日おめでとう!!」
「ありがとう」
「これからも一緒だよ?」
「勿論」
ところで、とレミが話し始める。
「お願いってなぁに?」
「あー…」
なんとなく歯切れが悪くなる。よくよく考えると、照れくさい。
「あのっさ…、俺、レミに名前で呼んでほしいんだけっど…」突っかかりながらも言うと、レミがにまーっと笑う。これは、嬉しい顔だ。
「呼んでほしいの?」
「…うん」
レミが一瞬目をそらし、目が合う。
「翔」
レミは一度呼ぶと満足気に繰り返す。
「翔、翔、翔、翔、翔」
呼ぶたびに満足気だ。ずっと翔と呼ばれるのにも恥ずかしくなってくる。
「レミっ…」
頭の中がすっ飛んだ気がした。気がつけば自分より細い体をきつく抱きしめていた。


あったかい。
彼女は言った。細い俺の体に細い腕を巻きつけて。
好きだよ。
俺は言った。何の意味もなく。ただ伝えたかったから。愛したかったから。
ありがと。
彼女はそう言って俺の胸に顔をうずめた。


愛しい人に、初めて名前を呼ばれた日だった。


(僕のすべてを君に捧ぐよ)
(名前を呼ばれたい、そんな小さなワガママなんだ)

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