いなくなる



※注意※
これは凪さんへのプレゼント小説です!
のらさんのみ、お持ち帰りOKです
リクエストは「宮堀/シリアスだけど甘々」です



「臨時で全校集会があるので、1時限目は体育館に集合してください」
 朝、宮村と登校するとそのように黒板に記されていた。担任の寺島先生の文字だ。
「なんだろうね」
「不審者とかじゃない? 最近暗くなってきたし」
「あー、かもね」
 私はその時は何も思わなかった。

 学級委員の声掛けで、1時限目は体育館に全校生徒が整列する。1組は全員参加だ。
 ざわめきの中、校長が登壇し一礼する。ざわめきがとまった。
「みなさんに臨時で集まっていただきました。その理由をお話しします」
 体育館内が静けさに包まれた。私の心の中はざわめいたままだ。
「昨日、3年2組の佐々木優佳さんが亡くなりました」
 なんで?
 胸の中はそれだけだった。
 きっと優佳ちゃんは私のこと知らない。私は知ってる。明るくて誰よりも努力家で、みんなのためにいつもがんばってる優佳ちゃんがどうして?
 校長は命の大切さを話している。私にそれは聞こえているようで、聞こえていなかった。

「どうしたんだろうね」
「う、うん…」
 宮村に話しかけられてもまともな返事ができない。胸が苦しい。声が出ない。
「友達…だった?」
「え、んーん。全然知らない」
 嘘だ。嘘だ。嘘だ。
 嘘つき。自分の嘘つき。
 うそつき。


 優佳ちゃんは陸上部に入っていた。全校集会のあと教室に戻り、授業が始まると陸上部だった女子が何人か保健室へ行った。
 授業は静かに始まって、静かに終わった。魂が抜けたような静けさだった。

 廊下は風が通るたびにゆっくりと音をだし、足音がやけに浮いて聞こえた。
「堀さん、大丈夫?」
「え、平気だよ。それより、ユキのほうが心配」
「なんで?」
「ユキ、佐々木さんと中学一緒だったし」
 顔を上げると先には、俯くユキと声をかけ続けるトオルの姿が見えた。
 すると、いきなり寺島先生が紙をにらみながら教室に入ってきた。
「今日は授業中止です! 全員すぐに下校するから、準備して教室で静かに待機!」
 黒板の端に貼り付けてあったマグネットで、持っていた紙を黒板の中央に貼り付ける。そして素早く教室を出て、2組でも同じ趣旨を話していた。
「下校だって。帰り、堀さんち行っていい?」
「うん、いいよ」
 そういって、宮村は自分の席に戻った。


 帰りの先生からの話によると、報道陣の心配や事故再発の防止による決定らしい。
 挨拶が終わって宮村と教室を出ると、手をつなぐユキとトオルがいた。ユキのワイシャツには滴が落ちたあとがいくつもあった。
「手、つないでもいい?」
「何よ、いつも普通につなぐのに」
「今日は、特別なの」
「いいわよ、つないでも」
 宮村の手は温かかった。いつもより強く握られた手に、私は甘えた。

 家に帰ると誰もいなかった。そうだ、お母さん出かけるって言ってたな。
「お母さんに電話するね」
「んー」
 押しなれた携帯番号をプッシュし、電子音をしばし待つ。
「あのね、今日帰り早くなったの。隣のクラスの佐々木さんがね、交通事故で死んじゃったんだって。それで、早く帰ってきたから。うん、宮村もいる。うん、うん、分かった。じゃあ、切るね」
 声に出して言うと、本当につらいことだと分かった。
 力が抜けて、胸の中にぽっかりと穴が開いた。
「本当に、大丈夫?」
 宮村の手が肩に乗る。もう、嘘はつけなかった。
「もう、ダメかも」
 ソファに深く座り込むと、隣に宮村が座る。冷えた指先が、宮村の温かい手に包まれる。
「あたし、嘘ついちゃった」
 きっかけは簡単だった。ただ、強がっただけ。
「優佳ちゃんのこと知ってた。すごい優しくていい人だなって思ってた。なのに、私、優佳ちゃんの存在消そうとしてた」
「私優佳ちゃんのこと忘れようとした。忘れたかった。知らない人だ、死んじゃったんだかわいそう、で終わらせたかったの。でも、もうそんなことできない」
 宮村は黙って聞いてくれた。私の中のすべてが抜けるまで、宮村はいつまでだって聞いていてくれる。
「ちょっとしか優佳ちゃんののこと知らなかったけど、たった一人欠けただけで、全部が全部崩れた気がした。いなくなって、初めて気づいた」

「堀さんは間違ってないよ」
 宮村のその一言がほしかった。
「知らない人でも、知ってる人でもいなくなって誰かに悲しいって思ってもらえるだけで、その人は幸せだよ。だから」
 堀さんはそれに気づけてよかったんだよ。

 優佳ちゃん、ごめんね。

 その一言も、絶対佐々木さんに届いてるよ。

 ありがとう。

 宮村はゆっくりと、私の手を握った。
 とても温かい、優しい手だった。


(どんなに相手を知らなくても、仲間は仲間なんだよ)(私、気づけてよかった)




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