with you!



冬休みに入ってすぐの頃。
朝から宿題なんぞをする気にもなれずベッドの上でだらだら漫画を読んだり、携帯をいじってすごしていた。
お姉ちゃんに大学には行けと言われていた。楽しいから、そんな一言を添えられて。別に大学には行っても行かなくてもどっちでもよかった。だから自分なりのレベルの大学にお気に入りのシャーペンで、堀とメールしながら書いた薄っぺらの履歴書を送った。試験の日も、大学の名前も、希望した学科も全部忘れて、冬休み前にした勉強だけを頭に叩き込んだ。
「メガドラ…してえ」
そう思ったのは2年前に流行った少女漫画のページを捲ったとき。
右手の親指にあったはずのゲームだこは、学校での受験勉強を経て消えてしまった。
トオルとも終業式以来会ってないし、家にも全然いってない。
気がつけばトオルにメールを打っていた。


TO トオル
本文:
メガドラしてえ


返事は2分と開けず来た。


TO 吉川由紀
本文:
…今からいいよ


穿き慣れていないカラータイツにショートパンツを重ねて、上には白のセーターを着た。
久しぶりに外に出た気がする。いつの間にか外が寒くなっていてびっくりした。




「いきなりだったなぁ」
「ごめんよ」
「いやいんだけどさ」
トオルの部屋は前に着たときより少し散らかっていた。勉強…忙しかったかな。
「俺も今日、外出たくなかったし」
「え、なんで?」
「だって今日、イヴじゃんか」
「ええええっ、今日ってイブなの!?」
「知らなかったのかよ…」
思わず携帯を開いて日付を確認する。右上に小さく12月24日。外に出ないし、学校にも行かないしでまったく気が付かなかった。
イヴなら、堀とかとなんか約束すればよかった。後悔しながら頭を抱えていると、トオルが声をかけてくる。
「メガドラ、準備してあるよ」
「ありがと〜」
コントローラーを手に取って、電源ボタンを押す。何週間も前にした動作が、毎日の習慣のように思い出された。
2時間ほどやって、目が痛くなってきた。トオルは後ろで雑誌を読んだり、あたしのプレイを眺めたりしていた。
「疲れたぁ〜」
コントローラーを放ってベッドの縁に頭をのせる。トオルがくすりと笑った。
「どっか行く?」
「どこも行きたくないんじゃないの」
「一人で出かけんのが嫌なんだよ。吉川がいるから別にいい」
「じゃあ、行く〜」
セーブをして電源を落とす。テレビ画面が真っ黒になった。
コートを羽織って、カバンを持つ。顔を上げるとトオルの久しぶりな私服が目に入った。
部屋を出てすぐ、矢代さんがケーキを持ってくるところだった。
「出かけてくるから」
「お帰りは?」
「わかんない」
「気を付けてね〜」
小さく手を振られたから、会釈をして返した。

「どこ行く?」
でかい家の門を出てから、トオルが私に訊いた。行く場所を考えていたわけではないらしい。
「とりあえず街行こうよ」
「オッケー」
吹く風が寒かった。たった2日、家から出ないだけで季節はこんなに変わるものなのかと、少しだけ驚いた。
「寒いね」
そういうと、トオルはこれが当たり前だとでも言うように、手をつないできた。トオルの手はいつも温かい。私の手は冷たいから、トオルが寒くならないか少し不安だ。
「バカ…」
なんでそんなドキドキしちゃうようなことするの。境界線を越えたくなるようなことするの。
「嬉しいんじゃないの?」
「嬉しいけど…さっ!」
イルミネーションを見ながら手をつなぐカップルみたいに、指を絡めたいつもと違うつなぎ方。
「イヴだからなぁ…」
「関係ないじゃん」
「じゃあ明日からずっとコレね」
「なんじゃそりゃ」
顔を見合わせて笑った。
卒業するまで互いに会える回数は数えるほどしかないけど、いまが楽しければそれでいい。
恋人じゃなくても、ただの友達でも“今”近くにいれればそれでいい。
「トオル」
「何?」
「ありがと」
「何が?」
「トオルが外に連れ出してくれなかったら、私高校最後のイヴをゲームして過ごすとこだった!」


手が離れないようにしっかりと手をつなごう。
今が楽しかったらそれでいいから、あまり先のことは考えないようにしよう。
一緒に居たいと思う人と、今日という日を迎えよう。

(with)
(you!)



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