宝物の日



(クリスマス小説)


「クリスマス、なんか欲しいのある?」
「え、別にいいよォ」
「俺があげたいのっ」
「えぇぇ…」


12月に入ってすぐの時、こたつでみかんを剥いていると宮村がそう訊いてきた。
いつもケーキやらなにやら貰っているのに、さらにプレゼントとまでなるとなんだか申し訳ない。それに宮村がくれるものは全部が全部、いいものだ。貰うたびに嬉しいのだけど、少しだけ胸が痛む。
「じゃあ、2択ね」
「え゛」
「プレゼントか、絶交」
ニコニコしながらえげつないことを言ってくるところに、少しだけイラッとした。
「ほとんど選択権ないじゃない」
「まあまあ」
宮村は照れ臭そうに笑った。
「プレゼント…とるしかないわよね」
「よしっ、決定!」
張り切るように宮村は声を張った。
私としては気が引ける。よく考えれば、私は宮村の好きなものをあまり知らないのかもしれない。もともと流行に疎いところはあるけど、好きな音楽、好きな芸能人、好きな本、考えてもぱっと何かが浮かんでくるわけではない。何かあげようと思っても、何をあげればいいかわからなくて結局、本人に聞いてしまう。
「堀さんは俺にプレゼント禁止ね」
「何でよ!」
「当日に一緒に居れれば幸せなの」
「それとこれとは別なんだけど!」
「いいんですぅ〜」
最終的には逃げられた。
私だって何かプレゼントぐらいしたい。例えそれがちょっとしたものでも、料理でも、宮村が喜んでくれるなら嬉しい。
「なんなのよ、もォ…」

やっぱりわたしは諦められなくて、クリスマスに晩御飯を作ることにした。チキンとグラタンとポテトサラダ。いつもより早くから晩御飯を作り始める。
「今日の晩御飯、なに?」
「チキンと、グラタンとポテトサラダ!」
「いいね、超クリスマス」
宮村はうちに来たとき、小さい紙袋をぶら下げてきた。パッケージからしてアクセサリーかな、と嫌な検討を付ける。そんな豪華なものじゃなくていいのにな。
「ご飯で来たわよー」
テレビの前に座っていた宮村が創太を連れて台所にくる。
「おねえちゃん、今日豪華だね」
「クリスマスだからねー」
重いおかずの乗った大皿を創太と宮村に渡した。
テーブルに色彩豊かな料理が並べられていく。窓際に飾ったクリスマスツリーの電飾も手伝って、我ながらとてもおいしそうだ。
「お母さんとお父さんは、仕事で遅くなるから先に食べちゃいましょ!」
「はぁい」
テレビでは有名な音楽番組が生放送で特別放送をやっている。
「いただきます!」


「ご飯、おいしかったよ」
「ホント? よかったぁ」
創太は自分の分のごはんをぺろりと平らげて、そのまま寝落ちしてしまった。宮村が寝部屋まで運んでくれた。
「はい、これ」
どこから取り出したのか、宮村が持っているのは来るときにぶらさげていた紙袋だ。紙袋の中からあるものを2つ取り出した。
「え、これって…」
「そうそう、指輪!」
ドラマや映画で見たことがある、あの小さな箱が2つ。
「ペアリング…?」
「そうだよ。開けてみて」
最初、どうやったら開くのかわからなくなった。箱の外側の生地が指にまとわりついてくすぐったい。
「あ、かわいい…!」
開くと、シルバーのリングに小さな片翼がついている指輪がちょこんと土台に嵌っていた。翼のもとには赤い色の石が埋め込まれている。
「これね、俺のと合わせたらちゃんとした翼になるんだよ」
宮村の箱の方に入っているリングと私のリングをくっつける。赤い石と青い石が並んで、その外側に翼が広がった。
「指輪、付けて」
「いいよ」
土台から指輪を抜き取り、宮村は私の手を取った。同じソファに座っていても、お姫様の結婚式みたいに跪かれているような気分だ。
宮村がとったのは、私の左手。少し迷うようにして、中指に指輪をはめた。
「薬指は、もうちょっと先ね」
「はぁい」
宮村も自分の右手中指に指輪をはめて、満足そうな顔をしている。
「でも宮村、ケーキつくる時つけれないね」
「そうなんだよねー…」
私は学校でも家でも無くすことはないだろうから、四六時中つけていられるはずだ。でも宮村はケーキを作る時に外さなくてはいけなくなる。
「あ、そうだ!」
私は部屋に駆け込み、めったに使わないジュエリーボックスを開けた。
指につけれないなら、こうすりゃいいじゃん!
「これでつけたら?」
自分には似合わないハートのネックレスについてた、ゴールドの鎖。
「お、いいね! ありがとう」
鎖にリングを通して、首に下げる。留め具をつけるのに、時間がかかった。
「冷た…」
「そんなに?」
「うん…」
宮村がソファからずるずる落ちていき、どんと音を立てて床に着地した。私はそのすぐ後ろに座る。
「こうすれば、寒くない」
後ろから宮村の首に腕を巻きつける。なんか、普通のカップルみたい。
「堀さん、今日はデレデレだね」
「あんたが指輪なんかくれるからよっ」

正直に言えないことは、後ろからなら言える。面を見て言おうとするから難しいんだ。小っちゃい声で、言いたい相手にだけ伝わるボリュームで、後ろからつぶやいてやればいい。

「ありがと」


(素直じゃないね)
(ちゃんとありがとうって言ったじゃん!)



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