カット・エンド 2 / 4 しおり ■ 小日向幸太 最近の独房は快適だ。 何十年とここにいるけれど、今更ながらに、そんなことを思った。 ここは天国でも地獄でもないが、衣食住の保証がなされている。 税金の無駄遣いだと自分でも思う。 しょっちゅうデモが起こったりするのも、頷けるものだ。 「……で、あんたは何を聞きたい?」 のんびりと独房で寝そべっていれば、看守が俺に面会者だと言う。 珍しいものだと来てみれば、それは見知らぬ若い女だった。 「面会までに骨が折れたのよ」 潔いまでのショートカットの頭を掻いて、千田はくすりと笑った。 「死刑囚だからな。余計なことを吹き込まれて暴れられたら堪らないんだろう」 それこそ税金の無駄遣いが延長される。 死刑が決まっても、すぐに執行される訳ではない。 それでも、俺の命はもうすぐ期限が来るけれど。 「……あなたの事件は知っているわ。血縁者を全て殺害。年明け早々に起こった事件だったから、ものすごい騒ぎになったもの」 そうだったろうか。 騒ぎにはなったろうが、すぐ捕まった俺にはものすごいものだったかはわからない。 そもそも、どの程度がものすごいのかさえ、初めてのことだったので、検討さえつかなかった。 「"何故か"。それが聞きたくて」 「本にでもするか?」 「それが仕事よ」 無駄のない言葉に、知らず笑みを浮かべた。 「生きることに理由はない。死ぬことに理由はない。殺すこと、殺されることに理由はない。ただ、それだけだ」 薄いプラスチックの向こう側に、俺は淡々と、あの日を語り出した。 |