ここは熱帯雨林だった。調整され気圧を保つ装置が常に稼働し、一見して野生のような籠の鳥達が色とりどりにそこかしこを飾る。キーキーと響く鳴き声が、鼓膜を不愉快に刺激した。 「君は気に入らないかね」 我が雇い主はさして気に留めた様子もなく、ただ言葉だけをそう投げた。 「あまり」 「そうか」 意味のないやり取りを交わして、雇い主は腰を上げた。上品なシャツは不自然な小雨と湿気で僅かに湿っていた。雇い主はやはり、さして気に留めた様子はなかった。 初老である彼は蓄えた髭を撫で擦り、ぽつりと呟いた。 「様々なことをした。様々なことをした結果、今のわたしにはこれが全てなのだよ」 「そうですか」 彼の言う様々なことが何であるか、そこに大した興味はない。ただ、その結果これが全てであると断言した事実と憂いを帯びた力ない笑みに、到底想像及ばない何かを抱えているだろうことは理解出来た。 「この温室を任せていいかね」 「それが仕事ですから」 全ての不自然は不愉快であるが、人であるが故、この仕事を全うして見せようではないか。 我が雇い主の抱える極彩色の闇に、人生の一辺を見た気がした。 _2009 極彩色の闇 © 楽観的木曜日の女 |