つまらないなあと思って手首を切ってみた。
思ったより赤い血と思ったよりちりちりする痛みに、少しだけ面白みを覚える。
なんだ、意外と面白いこともあるもんだ。
手首だけでなく、足首も切ってみた。
内側のくるぶし上が一番痛いことに気がつく。
そうか、外側より内側の方が皮膚が薄いからか。
首も切ってみようかと思って、それは最後のお楽しみに取っておくことにした。


「脇の下とか、いいかもしれないなあ」


いつか友達が、脇の下に入れたタトゥーがすごく痛かったと言っていたのを思い出す。
ふとカッターを見れば、赤く変色していかにも切れ味が悪そうになっていた。
刃を折ろうとして、またふと浮かんだのは、いつだかの教師の言葉だ。


「断頭台の刃の切れ味をよくしてもらうために、死刑囚は金を積んだとかって話だっけ?」


そうだそうだ。
切れ味が悪いほど、上手く死ねないんだった。
それだと面白みがなくなる。
つまらないのが嫌なんだから、それはいただけない話だ。
変色した刃はそのままに、脇の下に当ててから横に引いた。
ああすごい、真っ赤だ。
つまらない人生、つまらない毎日、そんなものが、痛みを感じるだけでこんなにも鮮やかになる。
生きてるんだ。
生きてるって、なんて素晴らしいんだろう。
痛みで感覚が麻痺していくのに、意識はだんだん朦朧として、鏡に映った僕は、不気味なくらいに笑っていた。
真っ赤に染まって、笑っていた。


「……ああ、生きてるって、面白いなあ……」


そこからの記憶はない。




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つまらないMの悲劇



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