世界が滲んで見えた。
何だか途方もなく悲しくなった。
じりじりと蒸し暑い部屋で、クーラーをつけていないのに産毛が総毛立つ。


「どうして……どうして人々は啀(いが)み合うのだろう」


いくら考えても答えは出なかった。
思考は十人十色、そして千差万別だ。
人々は啀み合い、争い、そうして身を削り闘う。
ああ、悲しい。
悲しいし、暑いし、寒いし、何も考えがまとまらない。
世界が滲んで見えた。
涙で前が見えない。
わたしが泣いているのか、はたまた、世界が泣いているのか。


「だから、風邪にはうさぎリンゴでしょ!?」
「お前はばかか!風邪には桃缶だろうが!」
「ああ……」


どっちでもいいから静かにして欲しい。
熱にうなされた頭で、取り敢えず、冷えピタを買ってきて欲しいと切に願った。





初出_20090627

涙で前が見えない



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© 楽観的木曜日の女