ある日僕は道を歩いていた。どこへ向かっていたとか、何をしていたかなんてそれほど重要じゃない。僕がいいたいのは、そのとき僕の目の前にウサギがいたってことだ。それは僕をじっと見上げて、僕が歩くはずだった道の目の前にいた。そうまるで、行く手を阻むように。

「退いてはくれないか」

 僕は先を急ぐのだから。口にしてふと思う、果たして急いでいただろうかと。何故急ぐのかは忘れてしまったが、どうやら急いではいるらしい。それでいいのかはわからないが、そう納得することにした。
 しかしウサギは退く素振りさえ見せず、こんなことを僕に言った。

「退いたら最後、チャンスはないよ」

 チャンスとは何だろう、わからないが、とりあえず僕は急ぐのだ。

「悪いけど急ぐから」

 仕方なしにうずくまったウサギを跨いで、僕はまた、その先を急いだ。

「そんなに急いでどうするんだろう、理由さえ曖昧なのに。ああ、彼は……」

 ウサギがそう呟いたことなんて、もちろん僕は知らない。
 ウサギがくれたチャンスに気付いたのは、辿り着いた先があの世だとわかってからのことだった。





スワロウテイルお題短編コンテスト参加作品
お題/カラー部分の文章から書き始めること
_2008????

ウサギがいた。



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