世界は始まり、そしてまた終わる。
それは対であり、輪廻は永久不滅の理である。



「なあ、アルファ」
「ちょっと近づかないで、バチッてなるから」

ここは世界製作所。
つまりは世界の創造と破壊を一手に担う場所であるが、規模の大小関わらず毎日同じ作業をしていれば、それは単なる仕事となる。
毎日同じ作業をしていれば、飽きることもまた、仕方ないことだった。
ここにもまた、そういった作業に飽き飽きしている世界製作所のツートップがいる。
彼らは暇だった。

「近づかないでって言われても。事務所狭いんだよ」
「仕方ないでしょ、あんたオメガなんだからさー。磁場が狂うの」

「静電気って結構痛いし」と続けたアルファは、腕やら首やらに着けた静電気除去ブレスを弄びながら、溜め息を吐いた。

「効かないわ、これ」

アルファの趣味はテレビショッピングだった。

「また何か買ったの」
「まだ。今度はデジカメが欲しいんだよね」
「何に使うの」
「次の終末にさー、記念撮影しとくとか?」
「お、いいねー」

微妙な距離感を保ちつつ、テレビショッピングに夢中になる二人。
いち早く地上デジタル放送を取り入れた40インチのそこには、いやにハイテンションな司会者が、いかに今回のデジカメが素晴らしいかを切々と説いている。
地上デジタル放送を何故ここが受信出来るのかは、神のみぞ知ることだ。

「でもさあ、次の終末ってまだ予定立ってないよ」
「あんたの担当でしょうが」
「20世紀、無事乗り切っちゃったのはお前が、」

『何と今回は、この最新型デジカメに最新型プリンター、充電器に高画質印刷紙に肌触りなめらかな収納袋もお付けして、特価39,800円!』

「「おおっ……あ!」」

バチッ、ザ、ザ──。

興奮した二人がテレビに詰め寄った瞬間、磁場が狂って、ついでにテレビのブラウン管は砂嵐に包まれた。

テレビが壊れた

アルファが小さく呟く。

「……こ、壊れた、ね……あ、痛!バチッって!バチッってなった!」
「ちょ、あたしもなった!だから近づかないでって!」

大の男女が二人、世界製作所事務所で口論していた。
世界の今後云々より、取り敢えず、新しいテレビ購入金額が経費で落ちるかどうかが、二人にとっての目下の悩みとなるのであった。

「あーデジカメ……」
「終末はうんと先にしとくから」
「当然でしょ、オメガの所為だからね!」



世界は始まり(アルファ)、そしてまた終わる(オメガ)。
それは対であり、輪廻は永久不滅の理である。
始まりも終わりも、物質も、また。





お題「テレビが壊れた」
企画サイトあおを見にゆく様提出
_ 20091104

アルファオメガ



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