年下彼氏

お坊ちゃん

年下彼氏はお坊ちゃん

お湯を入れて三分


2ヶ月ほど前に付き合った1つ下の彼氏が信じられない程のお金持ちだと知ったのはつい最近のことだった。そりゃ、私立の海南大附属高校に通っているんだからお金に余裕があったりもするだろう。しかし私みたいに特待生で入っている人からすれば年間の学費がどんなもんかは知らないし、ブランドなんかもよく知らないから判断は難しい。ただ、お金持ちと言うのは仕草や態度、隠せない上品さとかが滲み出てきたりするものなのではないだろうか。まぁ、それも私が勝手にイメージするお金持ちなんだろうけれど、普段それ相応の身なりをしている牧さんとか神くんとか、宮さんとか、それなりに良いところのお坊ちゃんだろうな。とは思う。だけど清田、君は絶対に違うよね?と心の底から思ったのだ。だって朝なんか寝癖のまま来ているし、椅子の座り方も豪快だし、笑う時なんか"かっかっかっ"と大口を開けて笑うじゃないか。なのに?なのにお金持ちだと?清田のどこがお坊ちゃんなんだ。ふざけるのも大概にしろ。とムッと口を尖らせながら朝練中の清田を睨む様に見つめると、清田は「え?なんすかなんすか?」と困った様に眉を寄せていた。面白いけど面白くない。だって2ヶ月も付き合っているのにそんなそぶりは全くないのだ。なんで教えてくれないのか。まぁ、言われても困るけど。と1人でブツクサ文句を垂れながら口を尖らせていると、朝練を終えて汗だくの清田が私の方まで駆け寄ってきて「山田さん、なんで怒ってるんすか?」と眉を寄せてくるから『なんでだろうね』と乾いたタオルを清田の顔にぶん投げて、ふんっ!と言わんばかりに清田から顔を逸らして朝練の片付けをし始める。清田は「えぇ?なんで...」と怒られた時の大型犬の様にクゥンクゥン言っていたけれど、何だか嘘をつかれていた様な気になってムカついたのでそのまま無視した。その後も教室へ向かうまで清田は「山田さん?ねぇ、ねぇ」と尻尾を振ってきたけれど無視した。SHRの予鈴がなるまでずっと私の机の周りをウロウロしていたけれど、やっぱり無視した。可哀想なことしたかな。と思ったのは清田が「また来ますね...」とシュンっとした顔をしてすごすご帰っていく背中を見てからだった。




「ね、山田さん」

『ん?あ、神くん』

「信長また何かやらかしたの?」

『うーん、そうじゃないんだけど私が勝手に怒ってるだけ』

「そうなの?じゃあ許してあげてよ。信長は山田さんの事大好きなんだからさ」




斜め後ろの席に座っている神くんにクスクス笑いながらそう言われて、思わず『そうなのかな?』と眉を寄せて小さく笑った。まぁ、清田は何も悪いことしてないし。私が勝手に怒っているだけなのだ。それに清田がお金持ちだからなんだと言うのだ。私達が付き合っていく上で別に清田がお金持ちでも貧乏でも、関係ないじゃないか。勝手に怒って申し訳なかったなぁ。昼休みにちゃんと清田に謝ろう。と1限の授業を受けながら清田に謝る事を心に決めた。
















『きーよたっ』

「山田さん...!」




昼休みに入った瞬間、ダッシュで清田の教室まで行って清田を呼ぶと清田は泣きそうな瞳をしながら私を見つめた。そんな大袈裟な...。と思ったけれど可愛いから何度もやって欲しい。『今朝はごめんね?』と眉を寄せて清田を見つめると、清田は「俺こそ...またなんか、やっちゃいました?」と大きい癖に小さく縮こまっているんだから面白い。『ううん。私が勝手に怒ってただけ。本当ごめん。清田は悪くない。なーんにも悪くない』と首を左右に振ると清田は「じゃあ仲直りっすね!」とニコッと笑った。ああ、可愛いなぁ。と思いながら『うん。お昼食べに行こう』と清田の手を取ると、清田は「そっすね!」と私の手を握り返してニコニコ。手を繋いだまま空き教室へと向かうと、やっと2人だけの時間になる。お弁当を広げる清田と違い、今日の私のお昼はカップラーメンである。私がコンビニの袋からカップラーメンを取り出すと、清田は「あ、それ食べたことないんすよね」と一言。え?あ、新作のカップラーメンだからかな?と思いながら『今週発売されたもんね』と言いながらカップラーメンの包装を開けていると「や、カップラーメンを」なんて清田の言葉に思わず手を止めた。




『え...?』

「ん?」

『え、は...え?カップラーメン食べたことないの?』

「はい!ないですよ?」




「はい!」と勢いよく返事をした清田に一瞬頭がくらっとした。いや、"はい!"じゃないのよ。え?なんで逆に今まで気づかなかったんだろう。生粋のお坊ちゃんじゃないの。と思いながら『た、食べてみる?』と清田の顔を覗くと、清田は「え!?いいんすか?」と目を輝かせながら私を見つめ返した。私はどうしても驚きが隠せずに確認する様に『い、いけど...本当に食べたことないの?』と聞き返すと、清田は「ないですよ?牧さんとか神さんも食べたこと無いんじゃないんすかね」とお箸を手に取る。『そ、そうなんだ...』とカップラーメンの包装をビニール袋に捨てた後に蓋を開けると、何を思ったのか清田が「じゃ、一口」なんて馬鹿みたいな事を口にしたもんだから開いた口が塞がらなかった。




『き、清田?これお湯入れて3分待ってから食べるんだよ。まだだよ』

「え?そうなんすか?」

『う、ん...お湯入れるから、ちょっと待ってね』




まさかそんな事まで知らないとは驚きだ。熱湯の入った水筒の蓋を開けてお湯を入れる仕草をまるで科学の実験でもする様にキラキラした目で見つめている清田に『この内側の線までお湯を入れたら蓋をして3分待ちます』と説明してからカップラーメンの蓋を締めて教室の時計へと視線を移した。「3分ですか」とポツリと言った清田に『うん。あ、先食べてて良いよ?』と時計から視線を清田に戻すと、清田は「3分あったら色々できますね」なんて照れくさそうに小さく笑う。『え?』と分かっているくせに聞き返すと、清田は「3分じゃ足りないですけど」なんて言って私の唇を優しく塞いだ。ちゅっと響いたリップ音が聞こえたと思ったら、清田が自分の下唇を軽く舌で舐めた光景が酷くいやらしく見えて『あ...』と口から小さく漏らすと再び唇を塞がれる。身体を後ろに引くと追いかける様に清田が私の唇を舌で軽くひと舐めして、『麺、伸びちゃう』と清田のワイシャツをギュッと握りしめると清田の舌が私の口をこじ開ける様に口内へと入っていく。ジュッと互いの唾液を吸い上げる様な音が聞こえて、舌が絡み合って、我慢できなくて揺れる瞳で清田を見つめると、清田は「駄目ですよ、そんな顔したら」と少しだけ離れた唇から囁いて、再び私の口の中を舌で犯した。




お湯を入れて三分
(確かに、3分じゃ足りない)




「へー、カップラーメンってこんな味なんすね。なんか麺柔らかくないすか?」

『そ、そりゃ...普通は3分だから...』



カップラーメンの麺を啜った清田がモグモグしながら言う言葉に余計に恥ずかしくなってきて、眉を寄せながら清田を見つめると、清田は「山田さんがえっちな顔するからでしょ」なんて意地悪そうに笑うから、『馬鹿』と言って思わず清田の肩を叩いた。





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