その鮮やかな笑顔の裏で 前編




合宿の最終日、みんなが寝静まったであろう真夜中に、彼の泊まっている部屋へ静かに入って彼が寝ているであろう布団へと潜り込んだ。なぜこんなことをしているかって?そんなの答えは簡単だ。私は今日、大好きな彼に初めてを捧げるのだ。「今夜、あの部屋で待ってる」と、練習試合をしている最中にコソッと耳打ちされて私は胸がときめくどころか心臓が頭の天辺から飛び出てしまうんじゃないかと思うくらいに動揺して『え!?はい!もちろんです!喜んで!』なんてガッツポーズを作って見せた。他のマネージャーが腕によりをかけて作ったご飯の味も記憶に残らないくらいにソワソワして、お風呂の時間も少しだけ長くして、化粧水をいつもより念入りに肌に染み込ませて、部屋に元から置いてあった浴衣なんか着ちゃったりして、後は皆が寝静まるのを待つのみ。彼の部屋に行くことばかりを考えて、高鳴る胸が煩いくらいに私の体を揺らしていく。海南大付属高校のバスケ部は人数が物凄く多いことで有名だが、さすがにこの大人数だと合宿中は宿を丸々借りることになるので、部屋割りしたって部屋に人がぎゅうぎゅう、部員全員がイラつき始めてしまって練習どころではなくなってしまうのである。そこでいつの頃だか知らないけれど、ジャンケンで勝ったメンバー1人だけが、通称VIPルームと呼ばれる部屋に1泊することが出来るのだ。こんなルール、既に卒業した先輩達が作ったものだけれど、代々受け継がれていたこの方法で恋人たちは人目を忍んで密会し、ついにはこのVIPルームで結ばれた男女は、永遠に愛し合うことができるなんてジンクスすら存在するのだ。そんな私も卒業していった先輩達のジンクスを実行するべく、密会を行おうとしているうちの1人である。私の恋人は1つ上の先輩、海南大付属高校バスケ部のキャプテンとしても活躍する牧さんで、なんで私なんかが付き合えたのか良く分からないけれど、多分これ以上の良いことなんて私の人生ではないと思う。つまり私は今人生の絶頂にいるのだ。私は『ふふ』なんて小さく笑い声を漏らしながら、潜った布団の出口を目指して『牧さん』と布団から勢いよく顔を出した。




「...」

『...牧さん?』




なんで声を出さないんだろう。びっくりするかと思ったのに...。と真っ暗な部屋で顔が近くにあるのに一言も喋らない牧さんに寝ちゃったのかな?なんて思いながら、私はもそもそと布団の中で身体を動かして、牧さんの身体に手を当てる。だけど手に触れた体が牧さんの胸板では無い気がして、何度かぺたぺたと胸に触ってから『あ、の...牧さん?』と問いかけると「牧さんじゃないけど」と気怠そうに聞こえた声にびっくりして思わず布団から飛び出そうと身体を後ろに引いていく。途端に手首がガシッと掴まれて、私は布団の中で組み敷かれる。今の状況を全く理解できない私が『え...?』と確認する様に声を漏らすと「だから牧さんじゃないって」と手首を掴んでいた誰かの手に力が入って、私は思わず声を張ろうと息を吸い込んだ。それに気づいたのかパッと口元に手が置かれて「シーッ...俺だよ。神」と聞こえた声に安堵して『ん、んん』と、手元に置かれた神くんの手を叩いて離して、と訴える。神くんは「ごめんごめん」なんて全然悪気なさそうに呟いて私の口元から手を離すと「さっき具合悪くて牧さんに変わってもらったんだ。驚かしてごめんね?」と優しい声色で呟いた。私は『そ、そうなんだ...私の方こそ具合悪いのにごめん...』とシルエットしか見えない神くんに謝ると『手、痛いよ...』と苦笑いしながら掴まれた手首に視線を移して、離してと言わんばかりに手に力を込める。なのに神くんは離してくれるどころか「...この状況よく分かってないみたいだね」なんて笑みを含んだ声で呟いて、私の唇に唇を押し当てた。最初は理解出来なくて、まるで時間が止まった様に静かな部屋と、柔らかい唇と、牧さんじゃない匂いが鼻を掠める。真っ暗な部屋で微かに神くんの顔が見えた気がして、私は『嫌っ!』と声を荒げて神くんの唇から逃げる様に顔を逸らした。神くんは「...酷いな...口、切れちゃったじゃん...」と低めの声で呟いて、私の手首を掴んでいない方の手で追いかける様に私の口へ指を押し込んだ。突然入り込んだ指に驚いて噛んでしまおうとも思ったけれど、此処で指を怪我してバスケが出来ないなんてことになったら...と、思うとできなくて、ジワリと口の中に広がる血の味を感じながら『やめて』と零れ落ちていく涙と共に訴えるのに、神くんは私の口から指を引き抜きながら私の耳の近くまで顔を近づけると「夜這いしに来たのは田中さんの方でしょ?」と囁いた。私は『違っ…!』と恐怖で締め付けられる様に苦しくなった喉から必死に声を絞りだして、首を左右に振っていく。神くんは「でも、浴衣って…やる気満々って感じだけど?」なんて言いながら、私の腰に巻かれた帯を掴むと強引に帯をほどいていって、私の浴衣をはだけさせる。頭と言葉で否定するよりも早く乱される浴衣と、私の首元におりてくる神くんの息遣いに恐怖を感じて、まるで暗闇に声も言葉も吸い取られてしまった様に口が動かなくなった。「大声出さないでね」と首元で聞こえた神くんの声で、更に私の恐怖心は高まっていくのと同時に身体が動かなくなっていく。帯がないことではだけた浴衣が、無理に下げられていく私の下着が、首元で少し荒くなる神くんの息遣いが、現実じゃない様に思えて『やっ...』と、私は震える声を小さく漏らして再び首を左右に振った。




「前戯、した方がいいんだろうけど...夜這いするくらいだし必要ないかな?」

『やめて...やだっ...ッ!!』

「しーっ...静かに...叫んだら誰か来ちゃうよ?電気つけられたら田中さんの大事なところ全部見られちゃうけど?」




私の正面に顔を移動させて「良いの?」なんて言いながら私の口を押さえつけた神くんの手が、大きくて、熱くて、怖くて、私は揺れる瞳で暗闇に浮かび上がる神くんのシルエットを見つめた。お互いの間に少しの沈黙が流れて、私が小さく首を左右に振ると神くんは「そう、賢いね」と言いながら私の口から手を離すと、露わになった私の肌に手を滑らせる。私に触れる神くんの手は優しい。だけどそんな事されても涙と恐怖心はとどまることなんか知らなくて、私の震える身体と溢れる涙が神くんに"嫌だ"と全身で伝えるのに、神くんの手は私の下腹部へと進んでいく。徐々に秘部を目指して下りていく神くんの手を感じながら、私は『やめて、お願い...』と震える声を漏らすのに、神くんは「しー…言ったでしょ?静かに、って…」なんて言いながら私の秘部を指でなぞった。触れられた瞬間に感じた神くんの指の熱が私の身体をビクッと揺らして、私の声が喉の奥で詰まって出てこなくなる。なんで?どうして?なんでこんな事するの?と、どんどん溢れてくる疑問と、神くんがこんな事する訳ない、だなんて勝手に思ってしまう私の思考が視界を余計に滲ませて、溢れた涙が私の目尻を伝っていく。「全然濡れてないね…緊張してるの?」と小さく笑った神くんの唇が私の唇に優しく触れる。触れるだけ、ただ、それだけのキスを何度か繰り返した。リップ音が響く静かな部屋で、少しの抵抗を見せる私の足先が布団のシーツを擦る音が微かに聞こえる。吸いつかれた唇が引っ張られて、そのままちゅっと何度も軽く響くリップ音が私の耳に届いた瞬間、ぬるりと私の唇に、唇よりも柔らかい何かが這う。それが神くんの舌なんだと気づく頃には、私の唇を無理やりこじ開けるように神くんの舌が滑り込んで、どんどん私の口内へと侵入してくる。神くんの舌で確かめるように、上顎、頬の内側、舌の裏側、舌の先、と私の口内全てがなぞられて、神くんの舌が器用に私の舌を絡めとっていく。そのせいなのか漏れた私の小さな声が、この静かな部屋に響かない訳がなくて、私の視界は余計にじわりと滲んでいった。今までの人生でこんなキスをしたことがない私には、頭で理解しようにも理解できなくて、こんなキスを神くんとしたいわけじゃないのに、こんなこと、牧さんともしたことなんかないのに。溢れる感情が追いつかなくて、感情に同調するように私の視界もどんどん濡れて滲んでいく。同時にクチュッと聞こえた水音が、どこで鳴ったかなんて知りたくもないのに「濡れてきてる…キス好きなんだ?」と熱っぽい吐息と共に神くんが呟いて、私は恥ずかしさから自分の下唇をギュッと噛み締めて静かに顔を横に逸らした。




「田中さんだって聞こえるよね?ここ、やらしー音鳴ってるの」

『…っ…!』

「聞こえない?じゃあ、もっと擦ってあげようか?」

『ッ…やっ!き、聞こえる…!聞こえるから…ッ…!』




秘部の割れ目を滑るように神くんの指が往復する度、徐々に煩くなる水音を聞きたくなくて『だから…もうやめて』と声を絞り出すと、神くんは「じゃあ、早く終わらせてあげようか?」と囁く様に耳元で呟いて、秘部の入口を執拗に指先で擦り上げた。このまま指を入れられてしまったらどうしよう…と思う少しの恐怖感と、気持ち良いと思ってしまう私の貪欲な欲望がまじりあっているかのように頭がクラクラして、身体が知らず知らずのうちに熱くなる。快感に流されない様に脚を捩って秘部に触れている神くんの手を太ももで挟み込むと、神くんはフッと小さく笑って「なに?我慢できない?」と私の耳に唇を寄せていく。『違っ』と否定する瞬間に膣内に入り込んだ神くんの指先に驚いて『いや!』なんて声を荒げると、手首を掴んでいた神くんの手が私の口をパッと塞いだ。




「俺、静かにって...言わなかった?」

『ふっ...ぅ...っ...』

「言ったよね?じゃあ、次大きな声出したらどうなるかわかるよね?」




「無理やり挿れるよ?」といつもより低めの声が聞こえて、私は恐怖で震える身体を抑えながらコクコクと何度も頷いた。だけど、自分の指ですら入れたことのない膣内に牧さんの指ではない指が自分の中に入り込んでいるという事実を信じたくなくて、私は『やめて』と何度が繰り返し口にする。圧迫感に耐えながらぎゅっと目を瞑ると、神くんは何かに気づいた様に「思ったより狭いな...」と指で私の膣内を何度か往復してから確認する様に「初めてって訳じゃないよね?」と問いかけながら私の秘部の突起を指で擦り上げた。私はピリッと電気が走る様な快感に戸惑いながら『初めてなの...だから...』と声を絞り出す。私の言葉に指の動きを止めた神くんが「そうなんだ...じゃあ少し、優しくしてあげようかな」なんて言って私の内腿に指を滑らせて、太ももに置いた手に力を入れたと思ったら私の足が無理やり開かされる。瞼を持ち上げながらビクッと身体を強張らせると、私の下腹部へいつの間にか移動していた神くんの顔に驚いて『い、やっ...』と小さく言葉を漏らしていくのに、熱を帯びた神くんの吐息がかかると私の身体が嫌でも熱くなっていく気がした。そんな場所で人の息遣いなんて感じたくないのに、ゆっくりと近づいてくる熱に期待しているみたいに『やめて』と何度か繰り返し口にして、私は秘部にいつ来るかわからない神くんの唇を待つ様に下唇を噛み締める。「ねぇ、田中さん...本気でやめて欲しい人はこんなに指締め付けないと思うよ?」なんて鼻で笑う様な声とともに聞こえた言葉に"そんな事してない"と否定する筈だったのに、突然秘部の突起に触れた神くんの柔らかい唇のせいでその言葉は私の口からは出てこなかった。初めての感触、初めての感覚、初めて他人から与えられる快感、全てに驚いて声が出せないまま、私の秘部の突起にヌルリと唇とは違う、柔らかく濡れた熱い何かが触れると、私の下腹部から小さな水音が漏れていく。きっと、神くんの舌が私の秘部の突起を舐めているんだ。なんて考えればすぐに分かる事なのに、全身に走る快感が、頭の中で秘部の突起の感覚しか拾えないかの様に私の頭を白くさせる。剥き出しになった神経に触られている様な感覚が、ビリっと強すぎる快感を私に植え付けて、舐めて、吸われて、何度も繰り返されるその行為が私を絶頂へと昇らせていく。なにこれ、なにこれ、なんで牧さんじゃないのに。なんで、気持ちいいの。と戸惑う思考が私の判断を鈍らせて、ギュッと布団のシーツを握りしめた手に力が入ると同時に私の声から自分じゃない様な甘い声が漏れ出ていく。『やめてっ...や、めて...』なんて、必死に漏らした否定の言葉が打ち消される様に「気持ち良さそうだね...」と笑みを含んで言われた神くんの言葉で、私は見えるわけもないのに首を左右に振って更に否定する。なのにどんどん近くなる絶頂感と、神くんの顔に押し付ける様に無意識に持ち上がった腰が神くんの言葉を肯定しているみたいだった。




『やっ...っ...あっ...や、め...っ...』

「田中さんの中凄い...ヒクヒクしてきた」

『だ、め...あっ、あっ...ッ!』

「イく?ねぇ、田中さん...」




「イッちゃうんだ?」と問いかけられた言葉が、私の頭の中で繰り返しぐるぐる回って、まるで神くんに支配されている様な感覚に頭がクラクラしてしまう。与えられた快感が蓄積されて、蓄積された快感が身体中を駆け巡りながら昇ってくる不思議な感覚を我慢できなくて、グッと私の身体に力が入った瞬間、一気に何かが弾けて頭の中が真っ白になって、目の前がチカチカして、何も考えられなくなる。ビクッと私の意思とは関係なく震えた腰が、何度か秘部の突起に触れた神くんの舌で再び震えて「中、滑り良くなったから動かすよ...」と許可を取ってくれてるわけでもないのに呟いて、膣内の指が探る様に私の膣壁を擦り上げていく。気持ち良くないのに、異物感と圧迫感を感じるだけなのに、私の口から漏れる甘い声が一層高くなって部屋に響いた気がした。恥ずかしさから下唇を噛んでいると、徐々に神くんの指が奥を目指す様に進んでいって、私の膣壁を押し上げる。同時に秘部の突起を吸い上げられた事に驚いて、ビクッと身体を震わせると「ここ弄ると、中締まるね」と何度も同じ部分を指で擦り上げてから「ちゃんとここが気持ち良くなれる場所だって田中さんの身体に教えてあげる」なんて言って神くんは私の秘部の突起に再び吸い付いた。私は擦り上げられる場所を気持ちいいなんて感じないのに、ただ、違和感を感じるだけなのに。なんて考えれば考えるほど分からなくなって、恐怖心と羞恥心で溢れた涙が目尻を伝って顔に触れているシーツが涙で濡れる。シーツが吸い込めないほどに溜まった涙がヒヤリと私の火照った顔を冷やした気がした。