緩やかにいま墜ちてゆく 後編







ベッドの軋む音と、荒くなった吐息まじりの甘い声と、シーツの擦れる音が私達以外誰もいない保健室に響いた。私の対面に座った神くんは、私に軽く口付けた後「俺に、どうして欲しいの?」と、分かっているくせに問いかける。神くんの言葉に『触って欲しい』と素直に口から漏れるのは、神くんが飲ませてきた媚薬のせいなのか、この身体の奥からくる熱さのせいなのか分からない。私は縋る様に神くんの瞳を見つめて静かに近づいてくる神くんの唇を待った。唇が触れそうな程の距離で「それだけだとどこ触って欲しいのか、分かんないな」と意地悪そうに言った神くんの言葉に、私は下唇を噛み締めながら『全部』と小さく口にして、「なに?聞こえないよ?」と私の瞳を見つめる神くんの瞳のせいなのか、ジワリと身体が余計に熱くなる。『全部、触って』なんて、ギュッと瞼を閉じて呟くと、神くんの唇が私の口を塞いでいった。口付けながら器用に抜かされていく私の制服が、外されていく私のワイシャツのボタンが、何度も離れては触れる神くんの口付けが、期待する様に激しくなる心臓の音が、私の身体を熱くさせていく。「口、開いて」と促す様に囁いた神くんの言葉に従って口を少し開くと、すぐに神くんの舌が私の口内へ滑り込む。ワイシャツのボタンが全て外されて顕になった私の肌を神くんがなぞって、ワイシャツの下を潜って私の背中に手が回る。流れる様に下着のホックが外されて、浮いた下着の隙間から入り込んだ神くんの手が、私の胸を揉むと同時に私の口からは小さく甘い声が漏れ出ていった。「確かに、いつもより熱いかもね」なんて神くんの声にゾクッとしたのも束の間で、胸を揉んでいた神くんの手が、指が、私の胸の突起を刺激する。私が思わず神くんの腕に手を乗せると、胸の突起をギュッと強く摘まれて、口付けをされているのに『あっ!』と声が大きく漏れた。神くんは小さく笑って「なに?」なんて目を細めながらそう言うと、私はじわりと滲んで行く瞳を誤魔化す様に神くんの左右の瞳を交互に見つめて『気持ち、いい』と消えそうな声で呟いていく。神くんは「痛くされるのが気持ちいいの?」なんて小さく笑って続ける様に「それって、変だよね」と言いながら再び私の胸の突起を強く摘まんだ。




『あっ…だ、め…』

「…じゃあ、やめる?別に良いよ?俺から誘ったわけじゃないし」

『…ッ…』

「ねぇ、田中さん…やめる?」





分かっているくせに、私の身体の熱をあげているのは神くんが飲ませた媚薬のせいなのに。なんて思いながら、私は下唇を軽く噛んだ後、口を何度か少し開いて、覚悟を決めた様に『もっと…して』と呟いた。言ってはいけないと分かっている言葉を口にする度に、私の体温が更に上がっていく気がして、その度に私の息が荒くなる。神くんは「いいよ、たくさん触ってあげるね」と言いながら、私をベッドへと押し倒すと私の制服のスカートをまくり上げて足の間に顔を埋めていく。私が声を出す前に太ももに寄せられた神くんの唇が、火傷しそうなほどに熱い気がした。軽いリップ音が何度か響いて、「痕、付けてもいいよね?」と確認する仕草をみせるくせに、私の答えを聞く前に神くんの唇が再び私の内腿に寄せられる。強く吸われた内腿がビクッと反応を見せる度に、神くんの小さく笑った声が聞こえて、場所を変えながら神くんの唇で私の内腿が何度も吸い上げられると、私の背中にゾクリと何かが走っていった。『待って』なんて言葉を吐いても私の足は神くんを受け入れる様に自然と開いて、神くんの唇が秘部へと進んでいく毎に私の奥から熱が溢れ出していく。神くんの唇が私の下着と秘部の境を喰むと、既に濡れそぼっている私の秘部がヒクついて、クチュッと小さく音を立てた。恥ずかしくて下唇を噛み締めながら瞼を閉じると、神くんは再び私の内腿に唇を滑らせて何度も軽いリップ音を鳴らして唇を寄せていく。期待するのにどんどん遠ざかる神くんの唇は、私が触れてい欲しいところまで届かない。触って欲しくて、だけど言えなくて、ゾクゾク背中に走るこの感覚の答えを知りたくなくて、私は噛んだ下唇を更に噛み締めた。





『ッ…じ、んくん…も、う…』

「…ん?…もう、なに?」

『なんで…』

「田中さんが”待って”って言うから、待ってるんだよ?」

『やっ…』





たくさん触ってあげる、って、言ったのに…なんでここまで来て意地悪をするのか分からなくて、私は閉じていた瞼を持ち上げてぼやける視界の中で神くんを探して顔をあげる。瞬間に、ふいに私と神くんの視線が重なって、恥ずかしくてすぐに私は視線を逸らした。神くんは私の太ももの付け根を優しくなぞると「まだ、”待て”なの?」と、私の膝裏へ手を滑らせて、私の足を広げていく。『あ、』と私が声を出す前に「ねぇ、田中さん…パンツもうぐしょぐしょだけど?」なんて笑みを含んだ神くんの声に『やっ!!』と下着越しの秘部を隠すように片手で覆うと、神くんは「そのまま…」と小さく漏らして私の太ももに口づける。神くんの言葉を聞き返す様に『え…?』と呟くと、神くんは「そのまま下着ずらして…」と私の太ももに舌を滑らせた。私はビクッと身体を揺らしながら、そんな事出来るわけない、とでも言う様に首を左右に振っていくのに、神くんは「気持ち良くなりたいんでしょ?」なんて言いながら、私の太ももの付け根を舌でなぞっていく。柔らかくて熱い舌のせいなのか、それとも蓄積されていく私の身体の熱のせいなのか、それとも、神くんの言葉に期待して、私が快感を望んでいるのか…答えを知りたくないまま、私は神くんの言葉に期待する様に自分の下着の端を持ち上げた。秘部を覆っている下着をずらす事が、こんなに恥ずかしいなんて、と思いながら再び下唇を噛むと、神くんは「此処はまだ触ってないのに、なんでこんなに濡れちゃったの?」と意地悪そうに問いかけてくる。私は『違ッ!』なんて否定の言葉を漏らすのに、神くんの唇が秘部に触れたせいで聞こえた水音に否定の言葉が出せなくなって思わず黙った。秘部に神くんの唇が触れた瞬間、身体中に電流が走った様に頭が真っ白になって、思わず下着をずらしている手に力が入る。徐々に舐めあげられる感覚が全身に回っていく気がして、快感しか感じないみたいに私の頭が白くなっていく。下唇を噛み締めるのに漏れていく自分の声が抑えられなくて、自分の手で口を塞いでいくのに、自分の声を抑えようと必死になっているせいなのか下腹部から聞こえる水音が余計に煩くなっていく気がした。待ち焦がれていた様に無意識に腰を浮かせて神くんの舌に秘部を押し付ける自分の姿が、まるで、まるで本当に私が神くんを欲しがっているみたいで、この光景を見たくなくてギュッと瞼を閉じると神くんの指が私の膣内に埋め込まれていく。その瞬間に、集まった熱がはじける様に頭が真っ白になって、下腹部が震えて、神くんの指をギュッと締め付けていくのを自分でも感じた。私は、指を挿れられただけなのに達してしまったんだ。なんて、言葉で言わなくたって荒くなる呼吸と、じわりと奥から溢れ出る愛液と、ヒクつく下腹部と、震える身体全身で、それを神くんに伝えていく。恥ずかしくて、こんな厭らしい身体、私じゃない。神くんが…神くんが媚薬なんて飲ませたから、こうなったんだ。と、自分に言い聞かせる様に心の中で呟いて、滲んだ瞳でちらりと神くんの顔を見つめると、神くんは少しだけ目を細めてから「早すぎ」なんて小さく笑って、私の膣奥を目指してググっと指を奥へと進めていく。駄目、駄目なのに…。指が奥へ進めば進むほど、私の身体がもっと、と求めている様に熱くなって、秘部の突起を転がすように舐めあげる神くんの舌に、ゾクゾクと私の背中に何かが走る。勝手にヒクつく私の膣内を押しのける様に進んだ神くんの指が、私の良い所を擦り上げて、同時に私の秘部の突起を舌で刺激していく。我慢できなくて身体に力を込めて耐えるのに、快感に滲んでいく視界が、震える身体が、勝手にヒクつく下腹部と膣内が、私の絶頂を再び伝えて神くんの指を締め付ける。どんどん早くなる神くんの指と同時に激しくなる水音が、私がどれだけ感じているのかを自覚させられているみたいで恥ずかしいのに、こんな事いけない事なのに、足先まで流れる快感に私は抗えない。何度か良いところを擦り上げられて、秘部の突起が吸い上げられると私はすぐに二度目の絶頂を迎えていく。絶頂を迎えたせいで荒くなる呼吸と、震えていく私の身体と、神くんの指を締め付けてしまう膣内が、余計に私の頭の中を白くさせていく気がした。「朝したから、中結構柔らかいね」なんて言って私の膣内から神くんの指が引き抜かれた瞬間、私が名残惜しそうにチラリと神くんに視線を移すと、神くんは「なに?」と意地悪そうに笑ってから「今日は田中さんが上に乗って」と私の下腹部から顔を上げて、"交代"とでも言う様に人差し指をクイっと曲げる。私がそのまま黙っていると、神くんが腕を引っ張って無理やり私の身体を起き上がらせて「出来ない?」と眉を寄せて小さく笑った。




『で、きない...』

「じゃあ、今日はコレでおしまい」

『...え?』

「だって、出来ないんでしょ?」





「なら、終わりでしょ」と神くんは私のワイシャツのボタンを下からしめだして、私はこの身体の熱をどうしたら良いのか分からないまま神くんの手を掴むと、神くんは「なに?」と私に視線を移してから「出来ないんでしょ?」と確認する様に私に問いかける。私は下唇をギュッと噛んでから『横になって...』と小さく呟いた。神くんは私のワイシャツのボタンから手を離すと、私と交代する様にベッドへと仰向けになって、自分のベルトに手を伸ばしていく。「上、乗って...少し腰上げて」なんて神くんの言葉に従って神くんの上に跨って少し腰を上げると、カチャッとベルトが外れる特有の音と、ズボンのジッパーを下げる音が部屋に響いて、私の背徳感が余計に煽られていく気がした。神くんが下着とズボンを軽く下げると、反り勃った神くん自身が下着越しに私の秘部に押し当てられる。ゾクッと背中に走る感覚と、自分の愛液で濡れた下着が秘部に押し当てられる様で気持ち悪くて腰を引くのに、神くんは私のワイシャツの下から手を入れて私の腰を優しくなぞった。そのせいで少し浮かせた腰がおりて、神くん自身に自分から押し付けてしまう。これから入ると思うとゾクッとして「下着、邪魔だね」なんて言う神くんに促されるまま、下着をズラして神くん自身を直接秘部に当てていく。こんな事、自分からする日が来るなんて思わなくて、ギュッと目を瞑りながら下唇を噛んで、腰を落とした途端に聞こえた水音に私の熱が上がっていく気がした。徐々に体重をかけていくと神くん自身が入ってくる感覚と、クラッと眩暈がする様な快感が私の視界を滲ませる。奥まで入っちゃう、なんて思ったのも束の間で、自分の片手を神くんのお腹に手を当てて、ゆっくり、でも確実に神くん自身を埋めていった。




「自分で奥まで挿れて、そんな気持ちいいの?」

『やっ...ち、がっ...ッ...』

「違う?ヒクヒクしちゃって...凄いよ、田中さんの中...」

『あっ!ッ...ふっ、ん、ッ...』





不意に動いた神くんのせいで、大きな声を漏らした事に気づいて下着をズラしていた手を離すと、私は自分の口に手を当てた。私の腰を持つ神くんの手がいつもよりも熱い気がして、ジワリと滲む視界で神くんを見つめると、神くんは眉を寄せながら小さく笑って「牧さんに、悪いと思わないの?」なんて言いながら私の膣奥を押し上げる。神くんの言葉で現実に引き戻された様な感覚に戸惑って、私の胸がズキッと痛んだ。違う、コレは、私が望んだんじゃない...だってコレは、神くんのせいなのに。





『あっ、やっ...じ、んく...がっ...』

「俺が...なに?」

『びや、く...使って...ッ...』

『あー...そう言う設定だったね...」

『え...?やっ、あ、あぁっ!』

「アレ、本当はただのビタミン剤なんだよね」





「高校生が媚薬なんて持ってるわけないでしょ」なんて言いながら突き上げてくる神くんの言葉を信じられなくて、じゃあ、なんで身体が熱くなったの、だとか、なんで、私は神くんの上にのっているの、だとか頭の中でぐるぐる疑問が浮かぶのに、「田中さんが、欲しがったんだよ、自分の意思で」と、意地悪そうな笑みを浮かべたの神くん言葉に視界がじわりと滲んでいく。違う、と否定する言葉を口にするのに、送られてくる快感に抗えないまま、私は口を押さえた手に力を込めることしかできなかった。





緩やかにいま墜ちてゆく
(違う、私は...)



「本当...田中さんって、悪い子だね」




力の抜けた身体が神くんの胸に倒れた途端、耳元で囁かれた神くんの言葉に、ゾクッと私の背筋に何かが走っていく。私は、牧さんが...牧さんじゃなきゃ...駄目なのに。口から漏れることの無い言葉が、ただただ私の頭をよぎって消えていった。