『あ、きら...なんで私のベッドで寝てるんですか...?』


「花子ちゃんこそ、なんで昨日は帰ってこなかったの?」






「他の男の匂いなんかさせちゃって」なんて彰が少しだけ顔を起き上がらせて、私の首元に顔を埋めながらスゥっと匂いを嗅ぐように空気を吸う音が聞こえる。久しぶりに彰に会えたことが嬉しいのに、ドキドキ早くなる鼓動と、熱くなる頭と顔のせいで私の口から何の言葉も出てこない。彰が首元から顔を上げないまま「そう言えば花子ちゃん、俺に血飲ませた?」と問いかけてくる言葉にこの前の出来事を思い出して、一瞬言葉を詰まらせる。だけど強く掴まれた手首が痛くなってハッとしながら『は、はい...血を飲んだから彰がこの前目を覚ましたのかと思ったんですけど...だ、ダメでした?』なんて答えると、彰は「悪魔にそう簡単に血をあげたらダメでしょ」と小さく笑った。彰の言葉の意味がわからなくて、"どう言う意味ですか?"と口を開こうとした瞬間に、彰の顔が私の首元から離れて口を塞がれる。ちゅっと軽くなったリップ音と共に唇が離れると、私を見つめる彰の瞳に焦点があって私の胸が苦しくなるのと同時に熱くなっていく。彰は吐息まじりに小さく笑って「俺と契約しちゃったね」なんて眉を寄せながら私を見つめた。







『えっ?ん?意味が、よく...』


「人間が自分の意思で悪魔に血を与えるって言うのは、契約して欲しいって言ってるのと一緒だよ?」


『え?じゃあ私...って...今、彰と契約してるの...?』


「そーだね」







彰の返答にポカンとしつつ、また唇を近づけようとしてくる彰の顔を手で押しのけて『ちょっと待って!』と声を荒げた。え?なに?なに?え?意味わかんない。契約したら何かが変わるの?それとも、今までと何も変わらない?て、言うか契約って何!?と混乱した頭を整理したくて私は彰に掴まれた手首を振り払う様に力を込めて『ちゃんと説明してください』と彰を見つめた。




















『えっと...つまり、契約しちゃうと私からしか精気貰えなくなるの?』


「うん」


『うんって...』







説明してもらったは良いけど、いまだに混乱している私の頭は落ち着くことはなくて、彰の言われた言葉を復唱してなんとか理解しようとした。どうやらこの前彰に飲ませた血のせいで契約した、までは良いけどその契約がよくわからない。『私、死ぬの?』と不安そうに声を漏らすと、彰は困った様に小さく笑って「少しずつ寿命が減っていくかもしれないけど、すぐには死なないよ」なんてフォローなんだかよく分からないことを言ってくる。『え?でも死ぬんだよね?』と聞くと彰は言葉を詰まらせて「俺を殺せば、死なないよ」なんて、悲しそうに眉を寄せた。







『え?...でも、彰を...殺したくない...』


「じゃあ、俺のために死んでくれるの?」


『それも、嫌...だけど...』


「あはは、そうだよね。花子ちゃんには、キスマークつけてくれる様な人がいるくらいだし、死にたくないよね」


『え?キスマー...あ!』







彰が何を言ってるのか一瞬で理解した私は、パッと手で首元を隠して『これは...会社の先輩の悪戯で...』と言い訳の様に言葉を漏らした。彰が「へぇ」と小さく笑ってから、キスマークを隠す様に首に置かれた私の手を掴んで「人間の男って悪戯でキスマークつけちゃうんだ?」なんて言って私の手を無理やり首からどかしていく。どんどん近くなる彰の顔が、私の首元めがけて埋まっていって、私がギュッと目を瞑ると、彰はちゅっとキスマークがあったであろう場所に吸いつきながら舌を這わせていった。ゾクッと背筋に何かが走った瞬間に「じゃあ、俺もキスマーク付けちゃおうかな」と首元に感じる彰の吐息まじりの声にドキドキしながら、彰に掴まれた手をギュッと彰へと絡めていく。痛いほど吸いつかれた首元から熱が帯びる様に身体中に伝染して、ヌルリと這った彰の舌が私の耳へと到達する。耳元で感じる彰の息遣いにドキドキして、瞑った瞼に力を込めると、彰が「大丈夫...今日はキス、するだけだから」なんて囁く様に言って私の耳に唇を寄せていく。大丈夫って何が大丈夫なの?と、言うかキスって、口に?それとも、耳に?それとも、首に?それとも...と頭の中でグルグル回っていく言葉がまるで私に期待させている様で、余計に顔が熱くなる。掴んでいた彰の手が私の指に器用に絡み付くと、指先まで熱くなるのを感じて、ちゅっと耳元で響くリップ音がやけに煩く聞こえた気がした。







『あ、きら...』


「ん?なに?」


『ちょっと、待って...っ...』


「どうして?」







「花子ちゃんの指は、俺に縋るみたいに絡んでるのに」なんて、歯の浮く様なセリフをサラリと言う彰に私の方が恥ずかしくなる。そのまま彰が顔を上げて、私の瞳を静かに見つめた。私は何故だかその瞳から目が逸らせなくて、彰が「目、閉じて」なんて言った言葉に促される様に瞼を閉じる。その後すぐに私の唇に彰の唇が優しく触れて、私の頬に彰の手が寄せられると、その手に反応する様に身体がビクッと小さく震えた。






「うーん、でも他の男の匂いのするシャツって、なんかムカつくね」


『...え?』


「脱いじゃおっか」


『ちょっ、ま...!キスだけって言ったじゃないですか!』


「そうだよ?キスするだけ」


『じゃあ脱がなくても...ん、んんっ...!』







話している途中で再び口を塞がれて驚いたのも束の間で、彰の手でシャツの端から捲り上げられて器用に服が脱がされていく。シャツが脱げたら次は下着、とでも言う様に下着に手をかけた彰の腕に手を乗せて『これは脱がなくても...』とモゴモゴ口籠った様に呟くと、彰は「花子ちゃんの全部が見たい」と甘く囁かれて仕舞えば私は何も言えずに下唇を噛み締めることしか出来ない。そのまま何も言わない私の下着を彰が脱がせていくと、また私の唇を静かに塞いでいった









Back