あの日以来、俺は何度か花子ちゃんの夢に潜っては彼女を求めた。もちろん最後までは出来ずに、少し、少しだけ。と、その少しが更にもう少し上乗せされて、夢の中で花子ちゃんの身体に触れる時間が長くなる。溢れていく花子ちゃんの甘い香りに虜になる様に、溺れていく。













『彰って結局何者なんですか?』



花子ちゃんに問いかけられた後、誤魔化すことも出来た筈なのに"悪魔だ"と正直に答えてしまった。俺のことを知って欲しくて、自分の中から溢れる様に欲が出る。一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、花子ちゃんの事をもっと知りたくなって、花子ちゃんの心に触れて、俺を求めて欲しくて、花子ちゃんの記憶の中に残りたくなっていく。花子ちゃんが小さい頃から人間に恋する様に、なんて見守って来たくせに、抑えられない欲が俺の理性を押しつぶす。良くないことだとわかっているのに、花子ちゃんの唇を奪って、触れて、吸って、絡めて、飲み込む。渇いた喉が潤う感覚に、俺の身体中が喜んでいるかの様にゾクリと鳥肌が立っていく。夢とは違って実際に触れる花子ちゃんの唇は熱くて、甘くて、俺の方が夢を見ているみたいだ。一度口にすれば、さらに次が欲しくなって、花子ちゃんの舌を絡め取ると涙で滲む様に光る瞳が俺の身体を熱くさせる。どのくらい唇に触れていたから分からない、だけど足りない。もっと、もっと、と名残惜しそうに唇を吸い上げながら口を離すと、花子ちゃんの誘惑にも似た甘い匂いが濃くなって、その香りに当てられる。抑えないといけない。だめだ。これ以上ここに居たら、全部、欲しくなる。なんて俺の欲望とは裏腹に花子ちゃんは呼吸を整えながら『なんで...』と口にした。俺は遮る様に傷が治った事を花子ちゃんに告げて、心の中でざわつく衝動を抑え込みながら逃げる様に花子ちゃんの部屋を後にする。自分の部屋に入ってすぐに酔いがまわった様に倒れ込んで、壁越しでも感じる花子ちゃんの甘い香りで苦しくなっていく。駄目だと自分で分かっていたくせに、触れて、飲み込んで、もっと欲しくなる。これ以上花子ちゃんの近くにいたら、駄目だ。そう思ってからは、俺が花子ちゃんの部屋へ足を運ぶことはなかった。



















花子ちゃんの部屋へ行かなくなって、夜に家を空けることが増えていく。花子ちゃんの香りが、俺の頭を熱くさせて、理性を保てなくなる。その場にいたら食べてしまいそうで、花子ちゃんの寿命を減らしてしまうのが怖かった。そう思って別の誰かと肌を重ねるのに、満たされない。自分の中で求めている花子ちゃんの香りと味が忘れられなくて、他の誰かじゃ足りないと思ってしまう。まるで麻薬を欲しているかの様に、一度口にしてしまえば、味が忘れられずに欲望のまま壊してしまいたくなる。そのうち自分から誘ったくせにその気になれなくて食事を取れない日が何日か続くと、身体が重くて動かなくなる。なのに、壁越しに香ってくる花子ちゃんの香りに、クラクラして部屋にいられなくなって、家をでて、誰かを探す。そんなことの繰り返しだった。あの日は、部屋を出ようとしたタイミングで誰かが俺の家の呼び鈴を鳴らす音がして、玄関から香ってくる独特の甘い匂いで花子ちゃんだと気づいて立ち上がる。その瞬間にクラッと立ちくらみのような感覚がして、身体が床に倒れていく。このまま起き上がらずにいれば、花子ちゃんは留守だと思ってどこか行くだろうか。と起き上がれないまま俺は意識を失った。その後意識を取り戻す頃には花子ちゃんが目の前にいて心配そうに眉を寄せながら俺を見つめていたけど、花子ちゃんの甘い香りのせいか、空腹のせいか、俺は「...じゃあ...ちょっと補給させてくれる?」なんて、馬鹿な事を口にしてしまった。




















『や、やぁっ...もっ、だめ、ああ...』


「いいよ、花子ちゃんがイく所俺に見せて」





花子ちゃんの快感で濡れる瞳が、高くなっていく甘い声が、俺のシャツを握りしめながら震える手が、痙攣していく膣内が、より濃くなっていく甘い香りの全てが俺を惹きつける。愛しくて、可愛い。ずっと、触れていたくなる。秘部の突起に吸い付けば花子ちゃんが絶頂を迎えながら俺の指を締め付けて、奥から更に愛液が溢れ出る様に俺の指に絡みつく。何度か掻き回す様に指を動かして垂れそうになる愛液をジュルリと吸い上げてからゴクリと飲み込んだ。これだけで空腹の俺が満たされるはずもなく、もっと、もっと欲しい。と、花子の中を掻き回す。止まらない愛液と花子ちゃんの甘い香りが俺の鼓動を高鳴らせて、これ以上先を求めてしまう。駄目だと分かっていても、花子ちゃんの口から『も、お願い』なんて可愛く言われてしまえば俺の理性なんかすぐに崩れ落ちていく。奥をもっと味わって、トロトロに蕩けた花子ちゃんの中を俺で満たしたくなる。口付けをしてから花子ちゃんの濡れた瞳を見つめて、一度冷静になるために瞼を強く閉じてから一呼吸して「ごめん、それは...やっぱり出来ない」と眉を寄せながら小さく笑った。花子ちゃんの寿命を縮めたくない。何より俺が余計に離れられなくなってしまう。俺の言葉に花子ちゃんが『...私こそ、その...ごめんなさい...か、帰りますね!』といそいそと俺の部屋から消えていく。その後ろ姿に俺は「花子ちゃん、待って」なんて情けなく声をかけることしかできなかった。後を追わなかったのは、深入りすればお互いが苦しくなるからで...いや、そんなのは言い訳で、ただ自分が苦しくなるのが嫌だったからだ。花子ちゃんの幸せを願うと思いながら、自分のしている行動に矛盾を感じて、花子ちゃんを目の前にすれば全てを自分のものにしたくなってしまう。そんな気持ちのまま数日が過ぎて、他の誰かを抱こうとして感じた違和感が、俺を動揺させていく。契約すると、他の人の味がわからなくなる。現に先程から目の前にいる女性からセックス特有の甘い香りが一切しないのは俺が誰かと契約した証拠だった。






願望か、現実か
(それとも偶然なのか運命か)



俺はこの前、花子ちゃんとキスをした時に感じた血の味を思い出して、まさか。と嫌な予感が頭をよぎる。少しの期待と、不安と、高揚感が俺を支配して、急いで花子ちゃんの元へと駆けていく。花子ちゃんと契約したなんて、勘違いであって欲しいのに、自然と口角が上がって喜んでしまう俺はまさに悪魔だ。








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