淫魔、と彰に言われてから自分でネットで調べてみた。あんまり情報があるわけでもないし、なんならえっちな漫画も出てくる始末。淫魔のことを知れるかも、なんて試し読みしたのはいいものの、これを読んでムラムラしていたらまた夢の中に彰が現れるんじゃないか?なんて思って静かにそのページを閉じた。結局わかったことは淫魔とは悪魔の種類で、彰の言う通り人の精気を食べて生きていると言うことだけだった。情報社会の割には情報が少ない。しかも、あの後から彰が夢に出てくることはなくて、なんなら私の部屋に来るわけでもなく、何だか気まずい日が3週間も続いた。元々、私は性欲が強い方だと思うし、何なら自分で自分を慰める行為もしていたくらいだったのだが、彰がいつ壁から部屋に入ってくるか分からないこの状況で、自慰行為すらも出来ないしで、もやもや、いや、ムラムラしていた。彰が来ないなら来ないで良いけど、ご飯とかは、どうしているんだろうか...それに、夢に出てこないってことは他の人の所にいって、その人の夢に出て私にした様な事をしているんだろうか。そう思うと胸がズキッと痛んで、自分が彰をどう思っているのか気づいてしまう。意識しているどころか、私は彰を好きなのだ。出会って2ヶ月弱のほぼ何も知らない筈の男のことを好きになるなんておかしいのかもしれないけど、今どこで何をしているのか気になるのは、好きだからなのだと思う。帰りの電車でそんな事を考えて、いつも通り買い物を終えて家に着いた。







『ただいま』






呟いても返事はなく、元の日常に戻っただけなのに寂しく感じて、コンコンと、壁を思わず叩いてしまう。もちろん返事なんかなくて、悲しくなってレジ袋からビールを取り出してごくごくと勢いよく飲み干していく。お酒が進むにつれてやっぱり気持ちも大きくなって、彰の部屋の前に立って呼び鈴に手をかけた。私から彰の部屋に行ったらどんな反応をするだろうか...驚いた顔をするかな?それとも困った顔をするだろうか。ドキドキと早くなる心臓と、緊張してゴクリと生唾を飲み込む音が全身に響いた後、私はお酒の力も借りつつ、意を決してピンポーンと呼び鈴のボタンを押していく。ギュッと思い切り瞑った目をゆっくりと開けながら、玄関の扉が開くのを待った。反応はない。居ないんかい。私の緊張を返せ。なんて思いつつ、はぁ、とため息を小さく吐いて自分の部屋へ戻ろうとした瞬間、バタンっと凄まじい音が彰の部屋から聞こえて、進めた足を思わず止める。中で何かあったんだろうか?そう思って再度呼び鈴を鳴らすけど、反応はないままで、玄関のノブへと手をかける。鍵は流石にかかっているだろうけど...と、念のための確認。そう、これは確認だ。中で倒れてたりしたら怖いし、なんて自分に言い聞かせてからノブを回した。玄関の鍵はかかっていなかった様で玄関の扉がガチャリと開いた事に驚きつつも扉を開けた隙間から『...彰ー?』と顔を出して呼んでみる。もちろん返事はない。『は、入りますよー?』と確認しつつ、そっと家の中へと足を進める。不法侵入だろうか...でもすごい音がしたし、何かあったのかもしれないし...。と彰のことを心配しつつも、彰の部屋に入れることに少しのワクワク感が私を浮き足立たせる。靴を脱いで『彰...?』と確認する様に何度か名前を呼んで部屋に入った。リビングの入り口に彰の足が見えて、やっぱり居留守してたのか、こいつめ。なんて思って声をかけようと彰の名前を呼びながら近づいて『え!?』と声が出てしまう。床に倒れる様に寝そべっている彰にすぐさま近寄って『大丈夫ですか!?』と声をかける。顔色が死ぬほど悪い。何なら青白くて、血の気がない。呼吸を確認しようと彰の口に耳を近づけると、微かに呼吸はしている様だ。え?どうしよう、救急車...あれ?でも悪魔なんだっけ?人間の病院で助かるんだろうか?どうしよう。と慌てながらふとこの前のことを思い出す。人間の精気を食べるって言っていたし、3週間くらい私の夢にも出てきていないわけで、もしかしたら精気が足りていないのかもしれない。酔った頭で回らない頭を必死に回転させて彰の唇に自分の唇を押し当てようとするけど、いや待て私じゃあんな濃厚なキスは出来っこない。唾液を人の唇に垂らすなんてことも多分できない。と思って近づけた唇を思わず離した。彰は確か体液と言っていた。体液、体液...それって血液とかでも良いんだろうか。彰の唇によだれを垂らすよりそっちの方が多分いい。なんて思って彰の部屋の中を見渡してみるけど、物がほとんど何もない。最近流行りのミニマリストってやつだろうか。どうしよう...。なんてグルグル回ってテンパっている頭を落ち着ける様に深呼吸を一度して『少し待っててくださいね!』と彰へ大きめの声をかけると、急いで自分の部屋に置いてある剃刀を手に取った。自分の人差し指に剃刀を軽く当てて、加減しながら剃刀を引いて血が出るのを確認してから彰の部屋に急いで戻ると、倒れている彰の唇に人差し指を押し当てた。







『あ、きら...大丈夫?飲んで...』






これが適切な対処法なのか分からない、でもヌルッと私の人差し指の傷口に、彰の舌がかすかに這った。気のせいじゃない、少し沁みて痛かったし、気のせいかもしれないけれど、彰の顔色も少しだけ良くなった気がする。私はホッとしながら『彰?彰、起きれる?』と声をかけると彰は「ん、」と声を漏らした後、少しだけ瞼を開けて「...花子ちゃん?...そんな顔してどうしたの?」と弱々しく目を細めた。私は『彰こそ、なんで倒れてるの?馬鹿なの?悪魔って死ぬの?何で部屋来ないの?食事ちゃんと取れてるの?』なんて彼女でも何でもないのに質問攻めにしてしまい、ハッとして『あ、ご、ごめんなさい...』と口をつぐんだ。彰はあはは、と小さく笑って起き上がると「...じゃあ...ちょっと補給させてくれる?」と私の頬を片手で優しく包んだ。あれ、これってそう言う...と思いつつ『う、うん...どうぞ...』と目をギュッと瞑った。「力抜いてて」なんて小さく呟いた後、私の唇に彰の柔らかい唇が優しく触れる。何度かちゅっとリップ音が軽くして、彰が確かめるように「なんか唇切れてる?」と私に問いかけて来る言葉に『え...?多分、切れてないと思います...けど、っ...』なんて答えると同時にまた口を塞がれる。何度か軽く唇に吸い付かれた後「じゃあ、大丈夫。もうちょっとキスさせて」と、何が大丈夫なんだか分からない私は頭にハテナを浮かべつつ、彰の口づけに応えていく。私の唇に彰の舌がヌルリと這うと、ビクッと身体が緊張した様に硬直して、彰の小さく笑う吐息が私の頬に微かに当たる。少し離れた唇から、彰が「口、開けて」と催促する様に小さく漏らして私はおずおずと小さく口を開いた。「良い子だね」なんて彰の優しい声にゾクッとしたのも束の間で、再び塞がれた口の隙間から彰の舌が入り込む。溶けるように熱い彰の舌が私の舌をすくい上げる様に絡んだと思ったら、ジュルっと音を立てて舌と唇が吸い上げられる。頭が真っ白になっていく感覚と同時に彰のシャツをギュッと掴むと、私の頬に添えられていた彰の手がなぞる様に首から背中へ伝っていく。そのせいで口から漏れた甘い吐息が私がどう感じるのか彰に伝えてしまう。ドキドキしていたら、彰が私の唇を吸い上げた後に「ごめん...もうちょっと、してもいい?」と私の目を見つめて微笑む様に目を細めた。これからされる事を期待して早くなる私の心臓がドクドクと全身に血を巡らせて、身体がさらに熱くなる。私は熱くなっていく身体を落ち着ける様に一呼吸してから小さく頷いて、またギュッと強く目を瞑った。彰は頷いた私を見た後にまた口付けて、スルリと私の服に手を入れると、下着のホックを器用に外して私の胸へと手を移動させていく。絡めとられた舌の隙間から漏れる私の甘い声と、私の肌をなぞる様に滑る彰の指先の熱と、アルコールのせいで回らない頭の全てが、私の身体を敏感にさせて、彰の指が私の胸の突起に到達する頃には期待と彰の口付けで私の視界はジワリと滲んでいた。







「キス、気持ちよかったの?」


『え...?な、んっ...で?』


「乳首...もう立っちゃってるし、それに...」




「甘い匂いが濃くなってきた」なんて囁きながら彰の顔が首元へと降りたと思ったら、息を吸う音が聞こえて私は恥ずかしさから思わず下唇を噛み締める。胸の突起に触れる彰の指に反応する様に、私の口から甘い声が小さく漏れ出ると、彰は「可愛い」なんて小さく笑った。








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