『いや、だ...っ...と、おる...』


「こんなに締め付けて、何が嫌なんだ?」


『違っ...あ、ああっ...!』


「違う?俺にこうされたいって、思ってるんじゃないのか?それに...本当は俺のこと...」






「好きなんだろ?」と、私の耳元で吐息まじりに囁く透の声が聞こえたような気がして、ハッと目が覚めた。寝起きなのに荒くなった自分の呼吸と、変な夢を見たせいで滲んだ汗が気持ち悪くて、身体にかかっている布団を足でバサッと退かしていく。嫌なのに...なんで、あんな夢...。なんて思いながら自分の顔を手で覆った後、確かめる様に自分の下腹部に手を伸ばした。ズボンと下着を避けて伸ばした自分の指先が、ヌルリと濡れた秘部に当たって思わず自分の下唇をギュッと噛み締める。これは、違う。昼間、藤真が透の話をしたから、だから変な夢を見て、違う。私が厭らしいわけじゃない。なんて、誰に咎められているわけでもないのに心の中で言い訳を並べながら、更に確かめるように指先を秘部の突起へと進めていく。透が触ってくる感覚を思い出すように刺激すると、私の口からは小さく甘い声が漏れ出ていって、頭の中が白くなる。透が私にあんなことしたから、透が、悪いんだ。なんて、漏れていく吐息まじりに小さく透の名前を呼んで、これはどんどん熱を帯びていく身体を落ち着かせるためだ、と自分に言い聞かせながら秘部の突起を指の腹で擦り上げた。真っ白になっていく頭の中で透の姿を思い浮かべて、徐々に昇りつめていく感覚が私の身体を振るわせる。『だめ、透』なんて、自分の意思でしているこの行為を認めたくない様に、透に抱かれていることを思い出して否定の言葉を漏らしながら、身体中をピリッと走る快感に身を任せて絶頂を迎えていく。同時に自分の中からジワリと溢れる様な愛液が私の指にまとわりついて、絶頂を迎えたのに自分の身体の中で次から次に生まれていく火照りが冷める事はなかった。






『何、してんだ...』






静かな部屋にポツリと呟いた自分の声が響いて、下腹部から自分の手を引き抜いて布団から起き上がる。荒くなっていく呼吸と、熱くなった身体を落ち着かせる様にベランダへ出て、少しだけ吹いた夜風を感じながらふと透の部屋の方へと視線を向けた。もう何週間も透の姿を見てないし、話してもいないのに、透が前みたいに私と普通に話してくれるんじゃないかなんて思ったのと同時に、私の身体がなぜだか熱くなって、誤魔化す様に頭を左右に振っていく。あんなに酷い事をされたのに、透と話せないと苦しくて、ふとした時に透の姿を探してる自分の気持ちが理解できなくて、胸と喉がグッと痛くなる。なんであんな事したんだよ透。あんな事しなかったら、今頃いつもみたいに笑い合ってたはずなのに。考えていたら腹が立ってきて、1発殴ってやろうかな。なんて、久しぶりにベランダを伝って透の部屋の窓を覗いた。どうせ開いてないだろ、なんて思ったのに、なぜだかこの日は鍵が開いているどころか閉まっているのは雨戸だけで、柔らかい風がカーテンを揺らした。ガラッと雨戸を開けると静かな透の部屋に響いた気がして私の胸がドキッと高鳴る。なぜだか悪い事をしている様な気分になって、『透?』と囁く様に口から漏らした。もちろん返事なんかなくて、代わりに規則正しい寝息が聞こえると、私の生唾を飲み込む音が響いていないはずなのに煩いほど聞こえた気がした。透が寝ているであろうベッドを目指して足を進めると、ギシッと木が軋む音とともに透の寝息が止まった様な気がして思わず足を止めながら、確認する様に息を殺す。途端にまた聞こえた寝息に安心しながら、透の側に近寄って『透...?寝てる?』と、起きてほしくもないのに何故だか私は透を呼んだ。





『透が、悪いんだからな...』




言いながら自分の手を透の髪の毛に滑らせると、サラリと指の隙間を通る透の髪とともに、透の匂いがふわっと私の鼻をつく。久しぶりの、透だ。と街灯の光で薄く照らされた透の顔を見つめた。私がこんな身体になったのも、こんな気持ちになるのも全部、透のせいだ。なんて苦しくなっていく胸が痛くて、透の顔を見るだけで熱くなっていく胸の意味を理解できないまま、私はまた透の髪にさらりと触れる。『ふざけんなよ、ばーか』と消える様な声で呟いて、透の顔横に顔を埋めていく。今までこんな近くにいたって、ドキドキすることなんてなかったのに。全身が心臓になったみたいに身体中が熱くなって、なぜだか私の視界がじわりと滲む。なんで、彼女なんか作ってんだよ。せめて報告しろよ。私は透の、親友じゃなかったのかよ。言いたいことなんて沢山あるのに、私の口から出てくる言葉は透の名前を呼ぶだけで、名前を何度か呼んだ瞬間に、透の髪の毛に触れていた私の手首がガシッと透に掴まれる。ビクッと身体を強張らせながら下唇を噛んだ私に「...花子...か?」と、薄目を開けながら問いかける透と目があった。私は言葉を詰まらせた様に何も言えなくて、寝ぼけた様な透の瞳を見つめると、透は確認する様に私の名前を静かに呼んだ。寝起き特有の掠れた声にドキドキして喉の奥が何故だか苦しくなって、何も言わない私に痺れを切らしたのか、透が掴んだ私の手首を引っ張る。そのせいで透の胸に倒れ込む形になって『うわっ!』なんて退こうと身体を起き上がらせると、透は「どうした?寝込みでも、襲いに来たのか?」と小さく笑った。私はどんどん早くなっていく心臓の音を誤魔化す様に『1発、殴りに来ただけだよ』なんて口を尖らせるのに、熱くなっていく顔と頭が、私の思考を麻痺させていく。






「殴れよ」


『...え?』


「殴れって、言ったんだよ」


『い、いいのかよ...』


「そのために来たんだろ?」






戸惑った様に私が言葉を詰まらせると、透は小さく笑って「それとも、期待でもしたか?」なんて、起き上がった私の腰に手を回して力を込められると、また透の胸の方へと私の身体が倒れていく。密着しただけなのに、前とは違う感覚と私の腰に触れる透の手が熱い気がして、ドキドキ煩くなっていく鼓動とは裏腹に『やっ...』と小さな声しか私の口からは漏れなくて、透を男と意識している自分に気がついた。透の胸に倒れたせいで顔の距離が近くなったと思ったら、先ほどから掴まれていた私の手首が透の顔に引き寄せられる。透の鼻が私の指先に触れる距離に置かれると同時に透が空気を吸う音が部屋に響く。「さっきから、甘ったるい匂いさせて...1人でシてたわけじゃないよな?」なんて、薄暗い部屋ではっきり見えるわけもないのに、透の熱くなった瞳が私を見つめた気がした。違う、と言いたかったのに言えなかったのは、透に全て見透かされてる気がして、私は口をつぐんでしまった。そのせいで透の言った言葉を肯定する事になるなんて分かりきっていたのに、私は揺れる瞳で透を見つめる。透は少し黙った後、フッと息を吐く様に笑って「図星か」なんて言って私の腰を押さえた手を滑らせてシャツの中へ潜り込ませていく。ビクッと私の肩が揺れる些細な反応を透は見逃さなかったのか、確認する様に何度か私の背中をなぞる。爪の先が触れるか触れないかのくすぐったい様な感覚のせいなのか、街灯の光に薄く照らされて見える透の瞳のせいなのか、私の背中にゾクリと何かが走っていって、私は口から自然と『透』と助けを求める様に透の名前を呼んでいた。






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