花子と無理やり身体を重ねて数日が経って、罪悪感で寝れない日々が続いた。花子が来るわけもないのに窓を開けてベッドに横になっていたら、いつの間にか寝ていた俺の顔の近くで、呼ばれる筈もないのに花子の声で『透』と言われた気がした。目を開けて、そんなわけないのに「...花子...か?」と口から漏らして薄目を開けると、花子の姿がそこにはあった。しばらく黙って俺を見つめていた花子が現実にいるのか、夢なのかわからなくなって花子の名前をもう一度び呼びながら花子の手首を掴むと、花子の早くなった心臓の音が、手首を伝って俺の掌に響いた気がした。同時に俺の方へ引き寄せると、花子は驚いた様に『うわっ!』と身体を起き上がらせていって、俺は「どうした?寝込みでも、襲いに来たのか?」なんて冗談まじまりに小さく笑う。『1発、殴りに来ただけだよ』と口を尖らせた様な声を出した花子に「殴れよ」と短く言ってから、言い直す様に「殴れって、言ったんだよ」なんて眉を寄せていく。戸惑った声で『い、いいのかよ...』と確認する花子に「そのために来たんだろ?」なんて言って花子を見つめた。それからしばらく口を閉ざした花子に「それとも、期待でもしたか?」とありもしない期待をしていたのは自分の癖に花子もそうであってくれないだろうか。なんて、期待を込めて口にした。嫌なら逃げろよ。この状況が、嫌なんだろ?俺の事なんか、もう...。と確認できるわけもなくて、俺は花子の指先から香る甘い匂いに引き寄せられる様に花子の手を自分の鼻先へ引き寄せる。







「さっきから、甘ったるい匂いさせて...1人でシてたわけじゃないよな?」






冗談で言った言葉だったのに、花子は黙って俺を見つめてくるから、事実なんだと悟って「図星か」なんて言葉と同時に花子のシャツに手を滑り込ませていく。花子が逃げられる様に、優しく触れるだけ、少し驚かせれば花子は俺から逃げていく。そうだろ?だって、嫌なんだよな、俺にこんな事されるのは。言いたかった言葉が苦しくなった俺の喉奥から出てこないまま、花子を見つめていると『透』と、か細い声で俺の名前を呼んでくる花子に、俺の理性がグラリと揺らぐ。俺は一度ゆっくりと瞬きをしてから「なんだ?」と花子が俺の名前を呼んだ言葉に答える様に口から漏らして『や、めて...っ...』なんて抵抗した花子が逃げやすい様に「花子が上に乗ってるんだからいつでも逃げられるだろ...」と言葉を濁す。続けて言った「それとも、逃げたくないのか?」なんて言葉は、俺の願望も勿論入っている。だけどそれ以上に花子の性格をわかっているから、この言葉を言えば、花子は反抗して逃げるに決まってる。そう思った。そして、このまま唇を近づければ、この前の様に俺の胸を押して、逃げると思ったんだ。なのにどんなに行為を進めても花子が逃げることはなくて、確認でもする様に触れるだけのキスを何度も繰り返して、次第に舌を花子の口へ滑らせて舌を絡め取っていくのに、花子は手首から移動して絡んだ俺の指をギュッと強く握りしめてくるだけだった。





「...良いのか?」


『な、に..?』


「藤真と、付き合ってるんだろ?」






ずっと聞きたかった疑問が俺の口から勝手に漏れ出たのは、俺から早く逃すためだったのに『つ、き合ってねーし...』なんて花子の言葉に俺の心臓が速くなる。付き合ってなかったから、何だって言うんだ。花子が俺のものになる保証なんか無いのに、俺は痛くなった胸を誤魔化す様に「藤真だって、花子の事ぐちゃぐちゃにしたいって...突いて、犯して、めちゃくちゃにしたいって思ってるに決まってるだろ」と、声を絞り出して呟いた。駄目なんだ。俺なんかじゃ。気持ちも伝えずにこんな事して、最低で、嫌われるような事を平気でして、そんな奴が気持ちを伝える資格なんか、どこにも無いんだ。思いながらやけに胸が苦しくて、早く俺から離れろと言わんばかりに花子の秘部へと手を滑らせた。





「好きだから...めちゃくちゃにしたくなる...」




I wish I could say
(何かが変わるだなんて、期待して)




『嫌じゃ、ない...』


花子が言ったその言葉に、俺の胸がじわりと熱くなった。






Back