透が、私に好きだと言った。その事が頭から離れなくて、私はここしばらく何も手につかなかった。藤真との勉強会は体がだるくて行けない。と断ったし、勉強も手につかないし、そのくせ透は私の苦手な部分に分かりやすい解説入れたノートをお母さんに渡してたし、なのに、週明けのテストは散々だったし...。全部、透のせいだ。ばーか、私達は、幼馴染で親友じゃなかったのかよ。なんて、心の中でぼやきながら、放課後の教室でボーッとしていると「何ボーッとしてんのよ!」と後ろから声をかけられてバシッと背中を叩かれた。驚きつつも、声の主で友達のサワちゃんだとわかると、私は『もー』なんて後ろを振り返りながら短く返事をする。サワちゃんは眉を寄せながら「最近元気ないね?」と私の顔を覗いた後に「久しぶりに遊び行くか!」なんて私の鞄と腕を引くと、私の返事なんか聞かずに教室を後にした。


















「なにそれ!?私が知らない間に面白いことになってんじゃん!」


『全然面白くねーし....』






私はファミレスの席ではぁ...とため息を吐きながら、誤魔化すようにストローを咥えてジュースを吸い込んだ。こんな事、相談しても良いのか分からなかったけど、サワちゃんは「理由を聞くまで帰らないから」とすごい剣幕で言うもんだから、かくかくしかじかで説明すると、目を輝かせながら私を見つめた。







「でもそれって無理矢理でしょ?強姦じゃん」


『まー...そうだな...』


「やっぱその幼馴染のこと、嫌いになったの?」


『...そーじゃねーけどさ...』


「でも最低な行為だよ?好きだとしてもあり得ないって...親友、やめちゃえば?」


『確かに酷いことされたって思うけど、親友辞めたいわけじゃ無いって言うか...』


「じゃあ、花子も幼馴染の透くんのこと好きなんだ?」


『...んなの、分かんねーよ...』






口を尖らせながらサワちゃんから目を逸らした私は、眉を寄せながらまたジュースを口に含んだ。嫌い、になったわけじゃ無い。だからと言って透の事を男として好きか、と問われればよく分からない。そんな事、今まで考えたこともなかったし...。考え込んで黙り込んでしまった私に、サワちゃんは「じゃあ、透くんに直接会ってみれば?」と、ポテトを頬張って「その後会ってないんでしょ?このまま会わなかったら、花子が言ってる幼馴染で親友どころか、昔は親友だった。って過去形になっちゃうかもよ?」なんて言ってまたポテトを頬張った。






『会って、どーすんだよ...』


「花子は透くんとどうなりたいの?」


『どうって...そんなの...』







『前みたいに、仲良くなりたい』なんて小さな声で言った私に、サワちゃんは「じゃあ今すぐ話してきなよ!話して無理だったら、前みたいには戻れないって諦めるしか無いかな」と困ったように笑った。私は『んな、無茶な...』なんて、思わず釣られて小さく笑うと、サワちゃんは「実は花子も透くんのこと気になってたりしてねー、あはは」と茶化すように言うもんだから『んなわけねーだろ!』なんて声を荒げてジュースをまた口にした。


















「お?田中じゃん」


『うっす』






サワちゃんと別れた後、ちょうど透の部活終わり頃だと思った私は、翔陽高校の体育館へと顔を出した。そこで私と目があった藤真が、少しだけ駆け足で私に近寄ると「花形、帰ったぜ?」とタオルで汗を拭きながら呟いた。私は『え?あ、入れ違いか...追いかけたら間に合うかな?』なんて、外を指さすと藤真は「んー、今日はやめといた方が良いんじゃねーの?」と小さく笑って眉を寄せる。私は意味がわからなくて、頭にハテナを浮かべると、藤真は笑いながら「そりゃお前...彼女と帰ってる時に邪魔しちゃだめだろ」なんて馬鹿みたいな言葉を口にした。私は藤真の言ってる言葉が理解できないみたいに『え?』と間抜けな声を出して、動揺した様にまた『え?彼女?』なんて口から漏らした。







「は?知らねーの?」


『し、らなかった...彼女...出来たんだ...』


「今まで告白されても全部断ってたから、俺も付き合ったって聞いた時はビビった」


『そ、っか...』


「やっぱ幼馴染が彼女出来たら寂しいの?まぁ、お前らべったりだったもんな。代わりに俺が構ってやるから凹むなよ」







あはは、なんて馬鹿みたいな声を出して笑った藤真の言葉が入ってこないみたいに、頭が働かなくなって、なんで?私のこと、好きだって言葉は何だったんだよ。と、悲しいんだか、呆れなんだかよく分からない感情が私の胸を何故だか締め付けた。『じゃ、じゃあもう...ここに来る理由もなくなっちゃったな』なんて、静かに呟いた私に、藤真は「は?誰も来んななんて言ってねーだろ」と眉を寄せながら私を見つめた。







『そうじゃねーよ...』


「別に、いつも通りでいいだろ」


『彼女が、嫌がるんじゃねーの?そう言うのって』


「なら、俺に会いに来れば良いだろ」






「花形じゃなくて、俺に会いに来いよ」 と、藤真は何故か真剣な顔して私の腕を掴んだ。私は思わず固まって、藤真の視線から逃げる様に顔を逸らして『何でだよ』なんて小さく呟いた。




I can't think of anything
(透のせいだ)



その日を境に、何故だか最寄駅によく藤真がいて、私の家まで送ってくれる様になった。『部活忙しいくせに来んじゃねーよ』なんて口を尖らせながら、私は何日透と顔合わせて無いんだっけ?と、無意識に考えていた。






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