「いや、田中は女子じゃねーだろ」




小学生の頃、クラスの男子で好きな女子の話をした時に花子の話題が出て、誰かが一言そう言った。その言葉にクラスの男子たちも頷いて、俺も勿論頷いた。何故なら花子は幼馴染で親友で、そういう対象ではないからだ。だけどそんな誰かの言葉に、俺はどこかホッとしていた。誰にも取られる事はない、花子はこれからもずっと変わりなく俺と遊んでくれる。なんて思ったのは子供特有の独占欲だったのか、それとも俺はこの時から既に花子に好意を寄せていたのかもしれない。自分の気持ちに気付くこともないまま、俺達は中学生になった。何事もない日常。変わらない日々。ベランダから『宿題見して』なんて、馬鹿みたいに笑う花子も、小学生の時から変わらない。そう、思ってたんだ。
















「田中ってさ、意外と可愛いよな」




中学に上がってからこの話題がよく出るようになって、「幼馴染なんだから紹介しろよ」なんて言葉もたまに言われた。最初は「冗談だろ?花子だぞ?」なんて、冷ややかな目で見ていた筈なのに、日に日に自分の中で花子を見る目が変わっていった気がした。自分より華奢な身体、小さい背、細い指、足、腕、声...。意識すればするほど、俺は花子をまともに見れなくて、花子を意識している自分の感情に蓋をする様に、俺は花子とは別の高校を受験して、別々の高校へ進学してすぐに、ベランダから入ってくる花子に「こんな時間に男の部屋に来るな」なんて馬鹿みたいな台詞を口にしたんだ。自分で突き放した癖に、花子が本当に俺の部屋に来なくなったことが悲しくて仕方なかった。なのに、それでも変わらず俺に話しかけてくれる花子に救われてたんだ。高校にいって、接点もない、ただ、家が隣同士ってだけの俺達の距離は自然と広がっていくと思っていたのに、全く変わらない花子の態度が何故だか俺の胸を苦しめて、意識しているのは俺だけの状況と、自分を女だと自覚しない花子に俺の苛立ちは募るばかりだった。だけど、花子の側をどうしても離れることができなかった俺は、何も変わらない幼馴染を演じ続けた。壊したくないはずのこの関係が余計に俺の胸を締め付けて、花子の態度に苛立っていく。頭の中で何度も汚して自分の欲を手に吐き出した。なのに花子に向ける嘘くさい笑顔が、保護者ヅラして一番近くで見つめて、無害だってフリを続けてる。そんな自分に嫌気がさしていた時に花子がいつも通り翔陽の体育館に顔を出して、頭にボールをぶつけたのを見て急いで近寄った。その瞬間に花子のシャツの隙間から見えた胸の突起にザワっと俺の中の何かが蠢いた。なに、してんだよ。他のやつに見られたら...。なんて思って余計に苛立って、部室で花子に俺の感情をぶつけていった。自己嫌悪と罪悪感で、その日は寝れなかった俺に、花子は何事もなかったかのように次の日の朝『おはよ』と俺の目を見ていつも通りに声をかけてきて、俺はまた勝手に花子に救われた。なのに俺の中でドロドロに溶けていくような暗い感情が、あの日の出来事を皮切りにして抑えてた感情が爆発していった。頭の中で何度も汚した花子の身体に実際に触れて、また何度も頭の中で花子を犯した。花子が俺から離れたら、嫌われてしまったら、話もしなくなったら、怖いくせに。嫌な感情を吐き出す様にため息をつきながら、俺がベランダで一呼吸しようとした途端に見えた花子の姿に、声をかけようとして口をつぐんだ。花子が藤真と笑ってるところを見て、ただ、嫉妬したんだ。



















その後、勉強を教える、だなんて花子を部屋に呼んで普通に勉強していたはずなのに、花子の口から藤真の名前が出た瞬間に、俺の中の嫉妬心がどんどん湧き上がって、また花子を無理やり犯した。徐々に蕩けた様な顔と焦点の合わない様な花子の瞳が俺を見つめて、一線は越えちゃいけない。と、頭では分かってる、分かってた、はずだったのに。俺は花子の上に覆い被さりながら静かに口付けて、花子のワイシャツのボタンをゆっくりと外した。花子の舌を絡め取る様に吸い上げて、花子の膝裏に手を回して、自身を花子の秘部に押し当てる。跳ね上がる様に早くなっていく心拍数が俺の全身に響いて、ここで止まれ、止まればまだ、何とかなるかもしれない。なんて細い糸一本で繋がってる俺の理性に縋る様に花子の唇から静かに離れた。『も、やめて、透』と、囁く様な、掠れた様な小さな声を花子が漏らした瞬間、煽られた様に俺の理性なんて簡単に崩れていった。「こっちに集中しろ」なんて余裕がないくせに花子の胸の突起を弄りながら、口から漏れた花子の甘い声を塞ぐ様にまた唇を寄せていく。秘部に押し当てた自身を花子の中にゆっくり埋めると、絡んだ舌に力が入る様にして、花子の呼吸が一瞬止まる。諭す様に「花子...息、止めるな」なんて言って軽くリップ音を響かせながら花子の唇にまた触れて「まだ全部入ってないぞ」と花子の締め付けに耐える様に眉を寄せて口にした。花子は左右に首を小さく振ると『無理』なんて消え入りそうな声で呟いて俺を見つめる。その瞬間の花子の表情、声、息、シーツを握りしめる指、俺を見つめる瞳、全てに興奮したようにゾクッと俺の背中に何かが走って、自身を花子に全て埋め込んでいく。花子の奥まで埋まった俺の自身にキツく絡みつくように花子の膣壁が俺を締め上げて、良いところに当たったのか花子の甘い声が小さく漏れ出て花子の身体がビクッと震える。溶けそうに熱い花子の中も、声も、唇も、息遣いも、震える身体も、濡れた瞳も、すべてが官能的で、俺を興奮させていった。熱くなっていく俺の身体が花子の身体に触れて余計に熱くなって、俺の頭は花子で埋め尽くされる。肌を打ちつける音と花子の甘い声と、卑猥な水音が部屋に響いて、快感に耐える様に花子の顔横に置いた手に力を込めた。気持ち良くて、なのに胸が苦しくて、俺の喉の奥が熱くなる。どうしたらいい?こんな、こんな事して...好きだなんて、言えるわけないだろ...。離したくない、離れたくない。他の男にくれてやるくらいなら...






「花子...初めては俺だって、覚えとけよ」






自分で壊した、この関係を。幼馴染ってだけでよかった筈なのに、側に居たくて、だけどそれだけじゃ足りなくて。俺は静かにまた花子の唇を奪って、自分の欲を花子にぶつけていった。そのまま意識を失った花子に布団をかけながら、自分でしたことを悔やんで自己嫌悪に陥っていく。それでもどうしようもなく溢れる様に俺は花子の背中を見つめながら「花子、好きだ」と静かに口から漏らした。







Don't tell me to forgive
(俺から、離れていかないでくれ)



いつの間にか眠っていた俺は、ハッとして布団から起き上がった。俺の隣に花子の姿は既になくて、起き上がったと同時に俺の身体にかかっていた布団がズルリと床に落ちていく。花子が掛けてくれたのか...。なんて考えて、自分のしたことを後悔する様に、自分の手で視界を塞いだ。







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