牧くんが会社を休んだ2週間が嵐のように過ぎていくと、私は何事もなかったかのように牧くんの家政婦を続けていた。今朝だって「いってくる」なんて牧くんの言葉に『いってらっしゃい』と普通に返事をして見送ったし、掃除だって、洗濯だって、食事の準備だって、何も変わらずいつも通りだ。牧くんとあんなに凄いことをしたのに、私を下僕という癖に、牧くんは私に優しく口づける。牧くんの行動を思い出していく度に、私は牧伸一という男がよくわからなくなっていって、なんだか頭が混乱していくみたいだった。それに、私は多分...いや、多分どころかどうしようもなく牧くんに惹かれてる。意地悪なくせに、強引なくせに、どこか優しい牧くんを憎むことなんか出来なくて、私は1人で頭を抱える。やっぱり、高校の頃の好きと言う気持ちが私の中で消化できていないせいなんだろうか。自分で自分の気持ちがわからないまま、私はテーブルに並べられたご飯にラップをかけながら、はぁ、っと小さくため息を漏らした。チラリと時計に視線を送ると時計の針が深夜の1時近くになることを知らせていて、牧くん、今日遅いのかな?でも遅い時は連絡くれるし...とかなんとか考えていると私はまたため息を漏らす。その瞬間に玄関の方からガタガタっと凄い音が聞こえて、私は驚きつつ確認しようとリビングのドアを少し開く。泥棒...とかだったらどうしよう。なんて考えながらドアの隙間から覗いてみると、牧くんが玄関に倒れているのが見えた。




『牧くん!?大丈夫!?』




急いで駆け寄ると牧くんがムクリと顔だけ起こして「花子」なんて弱々しく名前を呼ぶもんだから、私の顔が思わず熱くなる。いや、違うでしょ。赤くなってる場合じゃない。『牧くん?どうしたの?』なんて言って牧くんを起き上がらせようとすると、なんだかツンっと鼻につくお酒の匂いに気がついた。あれ?これ、お酒飲んで潰れてるだけじゃない?なんて思いながら、私が牧くんの背中に手を伸ばすと、牧くんが伸ばした私の手首をガシッと掴んだ。驚いて固まる私とは裏腹に、牧くんが静かに身体を起き上がらせると「水が欲しい」と短く呟いた。なんだか普段の余裕がある牧くんとは違って見えて、私は思わず笑ってしまう。私がクスクス笑うのをムッとした表情で見てた牧くんが「花子」と眉を寄せたまま私の名前を呟いて、私は『今持ってくるからちょっと待っててね』と言ってキッチンに向かっていった。






















『大丈夫?』


「悪い、カッコ悪いところを見せたな」


『ううん。いつもと違う牧くんが見れて嬉しい』




嬉しい。と自然と口から出てしまって『あ』なんて声を漏らした私を、牧くんは驚いたような瞳でじーっと見つめてきて私は余計に恥ずかしくなった。お酒が入っているせいなのか、目の据わったような表情をしてる牧くんにまた何だか笑えてきて、いつもとは違って可愛い。なんて思ってクスクス笑っていた私の唇を不意に牧くんが奪ってきて、私は驚いたのと同時に漂ってくるお酒の混じった牧くんの香りになんだかクラクラしていくみたいだった。徐々に私の唇を舐め上げていく牧くんの舌が、いつも通りの動きをして私の口内に入っていくのと同時に、私は牧くんがしてくる口付けに慣れてしまっている事に気づいたみたいに自分の心臓がドキッと早くなる。なんで私、こんな抵抗もしないまま、牧くんを受け入れてるんだろう。なんて考えて、私は思わず牧くんの胸を手で押した。





「...なんだ?」


『な、なんだじゃなくて...あの、私...』


「嫌か?」


『い、やじゃ...ないんだけど...』


「なんだ...嫌じゃないのか...」


『そ、そうだけ、ど...んぅ...んっ』





まだ話の途中なのに、また牧くんの唇が私の唇に当てられる。お酒のせいでいつもより熱い牧くんの舌が、私の唇をなぞっていくと、それだけで私は甘い声を漏らしてしまう。私の服の隙間から入ってきた牧くんの手が、ゾクゾクと背中に走っていく何かを追いかけるみたいに私の背中をなぞっていって、それと同時に私の下腹部がどんどん熱くなっていく。ちゅっと小さく鳴ったリップ音とともに、私の唇が牧くんの唇で吸い上げられていって、背中をなぞる牧くんの手が私の下着のホックを外した。徐々にホックが外れたせいで浮いてきた下着の隙間から私の胸に移動してきた牧くんの手が、優しく触れてるだけなのに私の身体はびくっと揺れる。瞬間に私の胸の突起が牧くんの指でギュッと強く摘まれると、私の口からは甘い声が漏れ出ていって身体が溶けるみたいに熱くなった。






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