牧くんと恋人になって1ヶ月が経った日の休日、記念日だ!なんて馬鹿みたいに浮かれた私は豪華な夕ご飯を作ろうと、張り切ってキッチンに立っていた。なのに、馬鹿みたいに浮かれきった私は食器棚からお皿を取り出す瞬間に手を滑らせて、お高そうな牧くんの家の食器を床に叩き落としてしまった。しかも、ガシャーンなんて派手に音を立てて、だ。そこから急いで割れて床に散らばったお皿の破片を拾おうとした瞬間に、チクリと人差し指が痛んで『いたっ!』なんて声を上げる私に気づいたみたいに、牧くんが「どうした?」なんてリビングの扉を開けて私に駆け寄ってきた。私は『ごめん、またお高そうなお皿割っちゃった...』なんて申し訳なさそうに眉を寄せると、牧くんは「そんな事はいい」と、私をソファーまで連れていって「救急箱を持ってくるから待っていろ」なんてため息まじりに去っていく。私はあぁ、また牧くんを困らせてしまった。なんて自己嫌悪に陥って、自分で自分が情けなくなってきた。ジワリと血が滲んだ人差し指を見つめていたら、牧くんが持ってきた救急箱を机の上に置いて消毒液を出して私の手を取る。牧くんが消毒液を私の人差し指にかけた時に少し沁みる感覚がして私は思わず下唇をギュッと噛んだ。『ありがとう』と眉を寄せる私に「高校の頃とは逆だな」なんで小さく笑った牧くんの言葉にドキッと胸が熱くなったと同時に顔が一気に赤くなっていくみたいだった。





『...え?』


「...ダサい柄の絆創膏だったよな」


『...覚えて、たんだ...』


「あぁ、日誌の一言も、ちゃんと覚えてるぞ」


『...え?待って、え?』





牧くんがチラリと私を見つめながら私の人差し指に絆創膏を巻いていって、私はと言うと、牧くんの言葉に思考が停止したみたいに頭が真っ白になっていく。え?待って、なんで、あんな一言の部分読んでる人なんかいたの?と、言うか私、なんて書いてたっけ?牧くんのことばっかり、書いてなかったっけ?思い出していく度にカァっと顔が熱くなっていって、何も言えなくなった私に「あれは、誰のことを書いてたんだ?」なんて意地悪そうに笑った牧くんの言葉が、私の頭と顔をさらに熱くさせていく。『あ、れは...牧くんだよ...』なんて目をギュッと強く瞑った私に、牧くんがフッと小さく笑った声が聞こえて「卒業式、勇気は出さなかったみたいだが?」と、言いながら私の手の甲にちゅっと軽く口づけた。なんでそんな所まで見てるの!?なんて、口に出せない私は、牧くんとはすでに恋人で、もっと恥ずかしい事をしているはずなのに、心臓がバクバク身体中に鳴り響いてるみたいに煩くなっていく。






「なんで、勇気を出してくれなかったんだ?」


『な、んでって...』


「花子、俺のこと想ってくれてたんだろ?」


『あ、あの...』


「花子...」


『卒業式の日...人に呼び出されて...少し話した後、牧くん探しに行ったら、もう居なかったの...』


「呼び出された?」







「告白じゃないよな?」なんて牧くんの声が聞こえて、ギュッと強く瞑った目を徐々に開いていくと眉を寄せた牧くんの顔が見えて、私も思わず眉を寄せた。『プ、プライバシー保護法を発動します』なんて口を尖らせた私に、牧くんが「却下」なんて言うもんだから私は更にグッと眉を寄せて無言を貫いた私の頬に牧くんが手を寄せて「花子、言えない事か?」と、私を見つめる。私は観念したみたいに重い口を開いて『告白はされたけど...過去のことだし、私が好きなのは牧くんだから』と、私が言い終わる前にどんどん近づいてくる牧くんの唇が私の唇を塞いでいく。そのまま喋り途中だった私の口の隙間から牧くんの舌が入り込んできて、私の口内が犯されるみたいに舌が絡めとられていった。なんだかいつもより強引に感じる牧くんの口付けに戸惑いながら、グッと牧くんの肩を押すと離れた口から「告白受けてて、俺に気持ちを打ち明けられなかったってのは、釈然としないな」と、私の首に顔を埋めていく。





『やぁっ...まっ、て...っ...』


「駄目だ」


『あっ、ま...ヤキモチ、妬いて...るの...?』


「...」






私の言葉にピタリと止まった牧くんの動きが私の言葉を肯定してるんだって物語っていて私は思わずニヤけてしまった。え?妬いてるの?高校の頃の話で?あの、牧くんが?なんて、いつも優位に立っている牧くんが、縮こまっているみたいでなんだか可愛くも思えてしまう。どんどん早くなってく私の心臓の音が、私の首に埋まっていた顔を上げて私を見つめる牧くんの熱い瞳が、私の手をまだ掴んでる牧くんの熱い手が、全部が私の胸を熱くさせていくみたいだった。






『牧くん...?』


「こんな俺は、カッコ悪いか?」


『ううん...可愛いし、大好き』


「その...可愛いってのは、別に嬉しくないぞ」


『あはは、私はどんな牧くんも、大好きだよ』


「...敵わないな、花子には」






「俺も、好きだ」なんて言って、また私の唇を奪った牧くんが掴んだ私の手に指を絡めてきて、絡んだ私の指がギュッと牧くんに握られる。溶けるみたいに深くなっていく牧くんの口づけに応えるみたいに私も牧くんの舌に舌を絡めていった。








その後の2人
(牧くん、大好き)





『やっ...今日は...だめ!』


「どうして?」


『今日は付き合って1ヶ月記念日だから...ご馳走作るし、ご飯作ってから...!』


「そうか...なら、尚更」


『牧くん...っ!』


「いつも以上に可愛がってやらないとな」





(2020/11/10)


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